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それは――考えないようにしていたことで――そのことを考えてしまえば、今さえも揺らいでしまいそうだったから。
愛されている実感は、溢れるくらい。
だけど、その理由が、根拠が、私自身わからないから、簡単に揺さぶられてしまう。
『理由なんて必要ない』、『根拠なんてくだらない』――彼がいたらそう言うだろうか。
だけど、理由がなくちゃ、根拠がなくちゃ、私は彼の気持ちを繋ぎとめる方法が、わからない。
イリヤ王子の悪意に飲み込まれてしまっているせいなのか、もともと私の中にあった感情なのか――『繋ぎとめる』だなんて、そんなこと。
幸せすぎて、壊れるのが怖い。
漠然と、しかし幾度となく心に浮かぶものの正体が、はっきりと形をとって目の前に現れてしまった。
そしてその正体は、私自身の姿をしている。
「あんたたちは面白いよ。カズマが大事なのはあんた一人だけど、そんなカズマに飽きられたら何も残らないのはあんたの方だ」
イリヤ王子が、少しだけ私との距離を詰めた。
「飽きられたあんたはつまんないから、奪う価値はなさそうだなあ。それとも飽きられてもカズマに追い縋ってみる?それなら多少は面白いかもしれない」
ああ、どうしよう。
最初から、耳を貸してはいけなかった。
大好きな彼の声が、姿が、目を閉じてももう、浮かばない。
イリヤ王子の声だけが、うるさく響く。
たったこれだけのことで。
私はなんて、弱いんだろう。
ぼんやりと、再び目を開けると、イリヤ王子が微笑んでいた。
「何もしてないのにこんなこと言われて、自分のこと可哀想だと思ってる?」
慰めてあげようか、そう囁いたイリヤ王子の右手が動くのが、やけにゆっくりと瞳に映った。
その指先は、今にも私の頬に触れそうで。
それでも、私は動けない。
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