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イリヤ王子は、クスクスと笑った。
「まあ、カズマに嫌がらせしたいのはほんとだけど、でも俺はあんたにも興味があるんだよ?前に言わなかったっけ?欲しくなったって」
『お前に示した関心はおそらく本物だ』――彼の言葉を思い出す。
何に興味を持たれたのか全くわからないけれど、私はますます警戒した。
私が何も答えないことは全く気にする様子もなく、イリヤ王子はますます楽しげな笑顔を作った。
「あんたを手に入れたらどうなるのか、知りたいんだよね。ていうかその前に、俺は他人のものを手に入れるのが好きなんだけど」
そう言いながらイリヤ王子がこちらに手を伸ばしたから、私は思わず身体を引いた。
「あははっ、ここでどうにかしようなんて思ってないよ。そりゃあ嫌がる女の子を無理矢理手に入れるのもいいけど、それじゃちょっとつまんないよね」
イリヤ王子の言葉に私は眉を潜める。
「退路を断って、そいつが自分から俺のところに来るように仕向けるのが一番楽しいんだよ。嫌で嫌でたまんないのに、大切なものの為には俺に屈服するしかない――その時の相手の気持ちを考えたらすっごい気分がいいと思わない?」
イリヤ王子が見せた心底幸せそうな表情に、悪寒が走った。
「屈辱、怒り、後ろめたさ、恐怖、悲壮感――拒絶なんかよりよっぽど、そそられる」
私の強張った顔に気付いていてなお、イリヤ王子は言葉を重ねた。
「助けてほしくて好きな男の名前を叫ぶのもいいけどさ、それよりもっと、赦してほしくて好きな男の名前を呼ぶ方がいい。そしてそれは、絶対に届かない――俺だけが聞いてるんだ。たまらないよね」
そして、イリヤ王子の視線が私を捕えた。
「あんた見た目はまあ可愛いし、カズマのことが大好きだってまるわかりだし、そうやって奪えば愉しめそうなんだよね」
情けなく、手が震えてしまう。
私はずっと、こんな悪意には触れないように、両親や兄――ここに来てからは彼に、守られていたのだと改めて気付く。
何と答えればいいのだろう。
黙っていては、怯えを悟られてしまう。いや、きっともう悟られている。だとしたら強がりを言ったとしても逆効果かもしれない。
足元でおとなしく座っているユキ以外には誰も味方のいないこの場所を、逃げ出してしまいたかった。
だけど、それは絶対にだめだと、わかっていた。
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