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どうしたらいいのかもうわからなくて、こんなことをしている自分が恥ずかしくて、顔を隠して彼から離れる。
それでもやっぱり、私が彼にのしかかっているという状況は変わらなくて、こちらを見つめる彼の視線も――相変わらず私を捕らえて離さない。
彼のその視線に、抵抗したいのに、指先が勝手に、従順になる。
「……っ、……」
ひとりで勝手に呼吸を乱しながら、私は自分の胸元のボタンをひとつ、外した。
どうしようもなく手が震えているのがわかる。息が苦しくなっていくのもわかる。顔がどんどん熱くなっていくのも。
それでも、指先が、止まらない。
なんだかもう私は、『好きなように』しているどころか、そうしなければならないと――身体が心に命令しているような錯覚に陥っていた。
私は一体、誰にこんなことを教わったというのだろう。
――それはもちろん、彼以外には考えられなかった。
彼にしたのと同じように、全部のボタンを外してしまうと、ひどく無防備になったように感じる。
頭の芯が痺れて何も考えられない。
私は、ひどく熱い両手で、彼の右手首を掴んだ。
「カズマ、様……」
そのまま、その手を胸元に引き寄せる。
彼に触ってほしいと――何の躊躇いもなく、その時の私は願っていた。
彼の冷たい指先が、微かに肌に触れる。
「リン」
何かを堪えているような声で、彼が私の名前を呼んだ。
その瞬間。
「……っ!わ、私……っ!?」
靄が晴れたように我に返った私は、勢いよく両手を引いた。
彼の声が引き金になり、私はようやく、真っ当に羞恥心を思い出す。
「あっ……私、何でこんな……っ」
両手で顔を覆い、滲む涙を隠しても、恥ずかしさは消え去らなかった。
さっきまでの自分がわからない。
私は一体、何をしようとしていたの。彼の目に、どんな風に映っていたの。
熱に浮かされていたとしか思えない、ほんの少し前までの自分が――あんな私が――私自身の中にいたなんて信じられなかった。
――と。
「悪い」
彼がそう呟いた瞬間、
「あっ、……えっ!?」
視界がぐるりと回転して、さっきまでと全く逆に――彼が私を見下ろしていた。
仰向けになった私の両手を強く押さえ付けて、強引に唇を奪われる。
「んっ……やっ、あ……っ!」
息ができなくて、混乱して、涙が零れた。
「もう無理だ」
唇が僅かに離れた一瞬に、少し呼吸を乱しながら、彼が言う。
「えっ、何、……っ!」
その意味を問う前に、再び唇を塞がれて、彼のてのひらが、今度こそ私に触れた。
いつも、言葉とはうらはらに優しく触れるのに、今日は違った。
慎重さも、余裕もない――少し乱暴なくらいの触れ方に、私はあっさりと、思考能力を奪われてしまう。
「カズマ様、待っ……」
考えなければいけないことがあるはずなのに。
私は、彼に『私だけのもの』だと、伝えることができたのだろうか。
彼はそんな私に、何かを感じてくれたのだろうか。
他には何もいらないと――私が思っているように彼も思ってくれただろうか。
だけど結局、答えを探す余地もないほどに、私のぜんぶを彼が奪い去ってしまった。
私にわかったことは、やきもちなんて妬いたって意味がないということ。
それでもきっと、私たちはこんなことを何度も繰り返してしまうのだろうということ。
それが、恋をしている――ということなのだと、
そんな当たり前のようなことだけだった。
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