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何でこんなことになってしまったのかわからない。
だけど、彼が私だけのもの――なのだとしたら、私だってそれを実感したかった。
それに、他のひとたちのことは『何も感じない』なんてあっさり言い捨ててしまう彼に、私だけが何かを感じさせることができるのなら。
彼がそれを『嬉しい』と言ってくれるのなら。
とんでもなく恥ずかしいけれど、彼に、私から、触りたい。
「……っ」
緊張に乱れる呼吸をなんとかおさえつけて、ゆっくりと彼の頬に触れる。
いつも彼がしているように――私がしたいように――
小さく額にキスをすると、彼の手が軽く腰に回された。
それだけでびくりとしてしまう私は、ふしだらなんじゃないだろうかと、恥ずかしく思う。
だけど、こんな風になるのは彼の前でだけなのだから、どんな私だって――隠せないし、今は隠したくない。
彼の首に腕を回して、そのまま全身の体重をかける。
本当はこれくらいではびくともしないはずなのに、私はあっさりと、彼を押し倒してしまった。
こちらを見上げる瞳に、私が彼を見下ろしているということに、戸惑う。
それを振り払うように、ぎゅっと目を閉じて唇を重ねた。
「……っ、」
どうすれば、彼みたいに、相手をくらくらさせてしまうキスができるのかわからない。
精一杯記憶を辿りながら、小さく口を開くと、彼が後ろ頭に手をかけて、その『方法』を私に教える。
「……っ、カズマ様っ、やっ……」
そんな風にされたら、もう私は、次にすべきことがわからなくなってしまいそうだった。
彼がやっと解放してくれた時には、私はすでに息が上がって、とてもはしたない顔をしていたと思う。
だけど、私はそのままもう一度、彼の唇を奪った。
教わったとおりに――全然うまくできないけれど、とにかく必死に、彼の真似をする。
はらりと彼の顔にかかった私の髪を、やさしく耳にかけられた。
彼の指先はそのまま、私の首筋をなぞる。
たまらなくなって、自分から唇を離した。
「私、もう、無理……っ」
「無理じゃない」
腰をさらりと撫でなられて、彼にまたがったまま身を竦める。
「だって、私全然……カズマ様みたいにできないです……っ、どきどきさせられないし、うまくできないっ……」
「そんなことない。うまくできなくてもいい」
そう言った彼は、私の手を、彼の服の胸元に誘導した。
「……っ!わ、私そんなの……っ」
何をさせられるのか察した私は、勢いよく首を振る。
だけど、彼は何も言わずにこちらを見つめるだけだった。
ここで逃げることを、許してくれそうもない。
「い……いじわる」
「意地悪なんてしてない」
「……っ」
私は小さく息を吸い込むと、震える手を、彼のボタンにかけた。
「……」
何度も躊躇いながら、ひとつずつボタンを外していく。
――その後に、彼がすることは?
私は彼の首筋に、それから胸板に、遠慮がちにキスを落とす。
そして耳元に、かすめるように口づけた。
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