▼ 46:やきもちの代償
いつも過保護な彼の気持ちが、やっとちゃんとわかった気がした。
『姫君方は、お酒を飲み過ぎてらっしゃるんですわ』
苦笑するマリカさんの隣に立ち、私は遠巻きに彼を見つめた。
とても綺麗で何だか色っぽい女の人たちが三人、彼の至近距離に座っている。
晩餐会で他国の姫君たちのお相手をするのも仕事のひとつ、だけど。
何も腕を絡められたり膝に触られたりしてまでも黙っていなくたって。
確かに彼自身はつまらなそうにしているけれど、見ている私は――やっぱりハラハラしてしまう。
私には、いくら彼の妃といってもあんな風にはとてもできない。
きっとそれも悔しくて、私はだんだん怒りが込み上げてきた。
『リン様、あの……お顔が怖いですわ』
『……そうですか?』
私は笑顔をひきつらせながらも、何とか晩餐会を乗り切った。
****
「何でそんなに怒ってるんだ」
彼はたまに、私ですら呆れるくらい鈍感だ。デリカシーがないと言ってもいい。
いつもはこちらが困ってしまうくらいに察しがいいのに。
今も、彼と目を合わさない私に、心底わからないという声でそんなことを言う。
「……怒ってなんかいません」
「じゃあこっちを見て言え」
「……嫌です。私、酷い顔してますから」
「やっぱり怒ってるじゃないか」
「……」
自分はすぐやきもちを妬くくせに私の気持ちには全然気付かない彼に、気付いてほしいのか気付いてほしくないのかわからない。
どちらにしても結局は――
「私のわがままなんです。だから、カズマ様に呆れられたくないんです」
私は、寝室を出て続き部屋に足を向けた。彼が眠ってしまうまでソファで本でも読んでいようと。
けれど、そんなことは許してもらえるはずがなかった。
「呆れない。わがままならいくらでも聞く。だからこっち向け」
手を掴まれて、半ば懇願するようにそんな言葉を掛けられる。
「……っ」
酷い顔をしていると言ったのに――そんな顔のまま、私は振り返ってしまう。
「私は……っ、あのひとたちみたいに色っぽくもないし大人っぽくもないから……だから悔しかっただけで……、他のひとがカズマ様に触ってるのが嫌だっただけで……っ」
散らかったままの言葉を、彼にぶつける。なんで言ってしまったんだろう、と後悔している自分がいるけれど、結局止められなかった。
例えばもう少しかわいらしく、やきもちを妬く方法だってあったはずだ。
たったあれだけのことで、そんな余裕もなくなるなんて、自分が情けなく思えてくる。
しばらくの沈黙に、私の後悔と羞恥はますます大きくなった。
――と、彼が不意に声をあげて笑い出したから、私は思わず眉を吊り上げた。
「なっ……!何がおかしいんですかっ!」
「いや、悪い。まさか喜ばされるとは思っていなかった」
彼が笑いをこらえるような表情で思いもかけないことを言ったものだから、私は動揺した。
「よ……私そんなこと全然言ってな……だいたいカズマ様、綺麗なひとたちに囲まれてほんとは嬉しかったくせに!」
動揺をごまかすように、やけになってそんな無意味なことを言い放ってしまう。
すると、当然というか、彼はしれっと答えを返した。
「何も感じないから振り払う必要も相手にする必要もなかっただけだ。強いて言えば香水臭かったくらいで」
その反応がますます悔しい。私ばかりが一人で空回りしているみたいで。
それなのに、意地になって言葉が止まらない。
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