my beloved | ナノ


▼ 45:ちいさなきず


「カズマ様……っ、ごめんなさ、……血がっ、」


私は、朦朧としかけていた意識を必死に手繰りよせながら、彼の腕に手をのばした。

まだ呼吸が荒くて、うまく言葉にならない。


「……ああ、別に痛くない」

彼は、少しかすれた声でそう言うと、身体を起こそうとしていた私の肩を押し戻す。

「でも、あの……っ」

「それに、悪いのは俺だ」

「そ、んなこと……」


私は、何と答えればいいのかわからずに、口をつぐんだ。



ほんの少し前。いまだに慣れないその行為に、私はもう、おかしくなってしまいそうだった。

そしてそんな風になることも恥ずかしくて、必死でいろいろなものをこらえながら、なんとか彼にしがみついていた。

だけど、そんなのは全部溶かしてしまうような言葉を耳元で囁かれて、ぜんぶがこらえ切れなくなって――


彼の腕に添えていた自分の手に力を込めた時、たぶん、加減をすることもできなくて、爪を立ててしまったのだ。


彼が僅かに顔をしかめたのを、涙で滲んだ視界にぼんやりと捉えた気はしていた。

だけど、その瞬間の私はそれを気にする余裕がなくて――それどころかますます強く、彼の腕を握ってしまっていたと思う。


そして、彼がこちらに覆いかぶさるように倒れ込んで、その息づかいや鼓動の速さを感じながら意識を手放しかけた時、彼の左腕に血が滲んでいることに気がついた。


右腕は、赤くなってしまってはいるけれど血は出ていない。それでも、片腕だけでもじゅうぶんに、私は動揺した。


「こんなのは傷のうちにも入らないから心配するな」

彼が指で血を拭うと、もうそれ以上の出血はしていないようで、痕だけが残った。

彼はそのまま、私を腕の中に閉じ込めて横になる。


私はやっと落ち着いてきた自分の呼吸にほっとしながら、その小さな傷にそっと触れた。

「……でもあの、やっぱり、ごめんなさい」


彼は毎日の剣の稽古で小さな怪我はしょっちゅうしている。だからこんな傷は本当に、たいしたことはないのかもしれない。

だけど、彼に傷をつけてしまったのが自分だと思うと、謝らずにはいられなかった。


「お前は悪くないから謝るな。――むしろ」

「……?」

「いや、何でもない」


何かを言いかけたはずの彼は、小さく笑うと、私の髪を撫でた。

その手の心地よさに、だんだん私の意識はぼんやりと薄れていく。


彼は何て言いたかったんだろう。その答えはわからないまま。



だけど、しばらく彼の腕に残ったちいさな傷痕を見るたびに、なんだかくすぐったいような何故か嬉しいような――そんな気持ちになって、私は戸惑った。

そして、彼が言おうとしていたのもそういうことだったらいいと、少しだけ思った。


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