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そんな猫の背中をゆっくりと撫でていると、同じように猫の方を眺めていた彼が言った。
「お前と同じだな」
「えっ?」
「そのリボン」
「あっ」
確かに。
綺麗に蝶々結びされた猫の首元のリボンに目をやる。もちろん色も違うし、生地も違うけれど、おそろいみたいでなんとなく嬉しい。
と、
「お前のそれは枝にでも引っかけたか?」
彼の言葉に、私は自分のリボンがほどけていることを思い出した。
情けなく頷く。
「だけど、結べなくて……」
「苦手なのか」
彼は意外そうな顔をした。
「はい。いつもマリカさんにやってもらってるんです……」
「初耳だな」
彼はそう言うと、一旦立ち上がってから、私の目の前で膝をついた。
胸元に手が伸びる。
「じっとしてろ」
「カズマ様、できるんですか」
「普通はできる。お前がおかしい」
「……」
憮然としている私を尻目に、彼はまず左右の長さを調節する。
「ほどく方が得意だが――結んでないとほどきようもないからな」
「……またそうやってふざける」
「ふざけてない」
笑いを含んだ声でそんなことを言いながら、彼が手際よく薄紅色のリボンを結ぶ。
私より全然大きい手なのに、その指先は私よりずっと器用みたいだ。
なんとなく、彼の手をじっと見つめる。いつも私を大事にしてくれる手。
「ほら」
私が何度やってもできなかった蝶々結びを軽々と完成させた彼は、ぽん、と私の頭をひと撫でしてから、立ち上がった。
「ありがとうございます」
綺麗に結び直されたリボンに、微笑みがこぼれる。
「これでほんとに、猫ちゃんとおそろいになりましたね」
「にゃあ」
返事をするように、猫が鳴いた。
「そろそろ冷える。中に戻るぞ。そいつも何か食いに来たんだろう、連れて行ってやれ」
彼は言うなりすたすたと歩き出す。
私も、猫を抱え直して立ち上がった。小走りで彼に追いつく。
「カズマ様、猫ちゃんおひさまのにおいがしますね」
「そうか」
「昼間ひなたぼっこしてたのかなあ?ふふっ、猫ちゃんはあったかいねー」
「にゃあ」
「嫌がってるぞ。ほお擦りするのはやめろ」
「い、嫌がってないです!ねえ、猫ちゃん?」
「話しかけるのもやめろ。嫌がってる」
「な、なんでそんないじわる言うんですかっ!?」
「にゃあ」
宮殿に戻ると、ハナエ殿下の女官たちによって既にミルクと小魚が用意されていて、それをぺろりとたいらげた猫は、さっさと森へ姿を消してしまったのだった。
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