my beloved | ナノ


▼ 


「……父上は、何か言っていたか」

こちらは向かず前を見たまま、彼が聞いた。左手を、私の右手に重ねている。

「王妃様がお好きだったという花を、お供えしていました。それから、私たちを守ってくれるようにって、お願いしたんだそうです」

「そうか」


『早く会いたい』――それを聞いてしまったことは、言わなかった。

きっと、王様の本音だけど本音じゃない、なんとなくそう思ったからだ。


代わりに、冗談めかして『内緒』だと言われたことを、あえて口にする。


「ええと、それでですねカズマ様っ!陛下から、今日はカズマ様を甘やかすようにって言われてるんです!だから今日は何でもしますから、思いっきり私に甘えてくださいっ!」


私は駆け引きだとかそんなことはできないから、上手に『甘えさせる』なんてことはとてもできない。

だったら正直に言ってしまうしかなかった。――甘えてほしい、と思ったから。



すると、彼は声を上げて笑った。

「そんな気合いの入った顔で『甘えてください』はないだろう」

「えっ?私、そんな顔……」

思わず空いている手で頬を押さえる。

それを見た彼はまた笑った。


そして少し意地悪な顔をして、私の首筋を人差し指でなぞる。

「何でもすると言ったな。何をしてもらおうか?」

「わっ、私は今そんな話をしてるんじゃ……」

彼の表情と指先に嫌な予感がして、私は慌てて抗議する。


と、

「冗談だ」

そう言った彼は、すとん、と私の肩に頭をのせた。

「肩だけ貸してくれればいい」


それきり、黙ってしまう。


お母さんのことを、思い出しているのだろうか。

でも、これではいつもとそう変わらないから、『甘えて』もらえているのかどうかよくわからない。


彼の髪をなでようと空いている左手をのばしかけて、止める。

私は彼にそうされているとすごく心地いいから、と思ったのだけれど、それを彼が望んでいるのかはわからない。

『肩だけ』と言っていたし。


すると、戻しかけた手を、彼が掴んだ。

そのまま、手の甲にふわりと口づけをする。

「……っ」

彼のこういう、真綿でくるむような触れ方にはあまり慣れていないから、思わず身体を引いてしまいそうになるけれど、私はそれをなんとかこらえた。


もっと落ち着かなくなったまま、沈黙に身を委ねる。



しばらくして、ふいに彼がつぶやいた。

「……いつか、会いたい」


誰に、と言わなくても、それはもちろん――

彼がそんな風に、漠然とした、そして現実的ではない言葉を口にすることなんて、めったにない。


ここで会えることはもうない。どこへ行けば会えるのか、知っている人もいない。

それでも、いつか。

その『いつか』が――少しだけ悲しくて、少しだけあったかかった。



そして私は、王様の言葉を思い出した。

『早く』とそう言ったけれど――確かにそれも本音かもしれないけれど、今の彼の言葉と同じ意味だったらいい。

残された私たちはいっしょうけんめい生きて、忘れないように生きて、それから――――いつか。


私は、彼と繋いでいる右手に少し力を込めた。

そして、彼をまっすぐ見つめる。

「そのときは、私も隣にいたいです」


彼は、びっくりするくらい穏やかに微笑んで、言った。

「当たり前だ」


prev / next
(2/2)

[ bookmark /back/top ]




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -