my beloved | ナノ


▼ 43:少しだけ特別な日


王様と私が王宮に帰ると、既に彼は仕事を終えていた。

そのまま夕食となり、後はゆったりとした二人の時間だ。


王様との散策はとても楽しく、私は部屋へ帰る廊下を歩きながら既に、その『報告』に夢中だった。

彼は穏やかな表情で時折頷きながら話を聞いてくれた。

部屋へ入っても話の止まらない私を、ソファに座らせる。


「――というわけですっごく楽しかったので、いつかぜひカズマ様もご一緒に!」

私が言うと、本棚の整理をしながら話を聞いていたらしい彼は、こちらを振り返った。

「結局お前たちは何しに出かけたんだ?」


その言葉に私はハッとする。

「あっ、その!違うんです!街を歩いたのはついでで……」

「父上はニヤニヤしながら『デート』だとか何とか言っていたが」

「ええと、確かにそう言われましたけど、」

「おい」

「あのでも!ほんとにそうじゃなくて!――王妃様のところへ、行ったんです」


私が言うと、彼は手を一瞬止めた。

そして、持っていた本をゆっくりと棚に戻す。


「そうか。今日は母上の誕生日だからな」


「え……」

その言葉に、私は昼間のことを全て理解した。

わざわざ小さな花だけを手に、遠い墓所まで出向いた王様。

『今日は』と言った意味。


それならなおさら、王様は彼と二人で行くべきだったんじゃないだろうか。


「命日は、王宮全体が母上を悼む。けれどそれよりも誕生日の方が、思い出す。ほとんど覚えていなくても」

そういえば、命日の式典の日、彼は国にいなかった。どうしても帰れない任務に当たっていたのだ。

だけど、その日よりも――


「父上も同じなんだろう。だから一人でいたくなかったんだろうな」

彼は苦笑する。そして、

「お前がいてくれてよかった」


そう言われた瞬間、私は大変なことに気がついた。


「――カズマ様を、一人にしてしまいました」

俯いてつぶやくと、彼がこちらを見た気配がした。

「そんな日に、一人にしてしまいました。私はカズマ様の妻なのに……」


何も知らないで、執務室にこもる彼を置いて出かけてしまった。

その上、のんきに街で遊んで帰ってきて……。



すると、彼が私の目の前に立った。

「今、いる」

「え?」

「お前は今、ここにいてくれている。一人になんかなっていない」

「でも、昼間、」

「昼間は父上から押し付けられた仕事でそれどころじゃなかった」

彼は仏頂面で言いながら、私の両手を取った。


「昼間は父上に付き合ってくれて、今は俺のそばにいてくれている。何も知らなくても、お前は俺たちの心を軽くしてくれている」

「で、でも……」

「隣に座ってもいいか」


口ごもる私に、彼が意外なことを言う。

座ってもいいか、なんて聞かれたのは初めてだ。元々、これは彼のソファだ。


私が頷くと、彼は静かに隣に腰を下ろした。


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