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彼はそのまま、耳元で囁く。
「リン、好きだ。離したくない」
「っ!カズマ様っ!じ、自分で何言ってるかわかってますか……っ!?」
「わかってる。お前が好きだから離したくないと言った」
「繰り返さないでくださいっ!恥ずかしいっ……!」
あまりのことに、私は彼を押しのけようとするけれど、彼はびくともしない。
普段の彼は、私が恥ずかしくなるのを楽しんでいるようなところがあるけれど、今の彼は大真面目に恥ずかしいことを連呼している。
なんてたちの悪い酔い方をする人なんだろう。
――それなのに、触れ方はいつも通りだから、私は簡単に抵抗を封じられてしまう。
ぎゅっと目を閉じて、身を竦めることしかできなくなってしまった私に、彼がもう一度囁いた。
「――リン」
お願いだからもうこれ以上、大好きなその声で、私の名前を呼ばないで。
身体に力が入らなくなって、考えるべきことがわからなくなってしまうから。
「はい、カズマ様……」
呼ばないで、と願いながらも、私は彼を見つめ返してしまう。
返事をしてしまう。
ふっと笑った彼が、私の頬をやさしく撫でたから、私はもう、何も考えることができなくなった。
Special thanks:彗さん
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