▼ 04:有言実行、それから
彼がくれた子犬・ユキのすみかは私たちの部屋になった。
私と彼の部屋は、まず居間のような空間があり、その奥に扉を隔てて寝室がある、という作りだ。
その居間の一角に、ユキのためのスペースがつくられた。
夕方、私がユキとじゃれあっていると、彼が帰ってきた。
無表情だが、ユキを見て少しだけ穏やかそうな顔になった気がするのは、気のせいだろうか。
「お帰りなさい」
「ああ」
彼は、ふかふかのソファに腰を下ろしてしばらく私とユキをぼうっと眺めていた。
しかし、ふいに「おい、」と呼びかけられる。
振り返ると、彼は無言で私を手招きした。
ユキを抱いたまま、私は彼の隣に腰掛ける。
「こいつは下ろせ」
彼がユキをちらりと見る。
私がユキを放すと、ユキはおとなしくソファのそばの床に座った。
「二人きりだ。もう一度言え」
「え?」
彼の言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
ようやく昼間の執務室でのやりとりを思い出し、頬が熱くなる。
「カズマ様!あんなのみんなの前で言わないでください!何て思われるか……、すごく恥ずかしかったじゃないですか!」
「夫婦なんだから別にいいだろう。それに勝手に何でも想像させておけばいい」
「何でも、って……」
「お前、今なにを想像した」
「!?べ、別に何も!そういう意地悪はやめてください!」
私が真っ赤になって抗議すると、彼は口の端を少し上げて笑った。
彼が笑うのは、私をからかうときくらいだ。
「なら早く昼間のを言え」
よくわからないけどなぜか、この流れで言わされるのが妙に恥ずかしい気がした。単なるお礼なのに。
これも彼の作戦だろうか。
「あの、えっと……、ありがとうございました。すごく、嬉しかった、です」
遠慮がちにそう言い、おずおずと顔を上げると、目が合った瞬間に、彼が私の腕を掴んだ。
そして軽く自分の方へ引っ張る。
「えっ、わっ!」
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