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離れようとした瞬間、首の後ろに手が回され、今度は私の唇が奪われる。
「……っ!」
私がしたみたいなキスではないから、思わず声をもらしてしまいそうになる。
ふいに彼の手が腰に回されたと思うと、私は軽々と彼に抱き上げられた。
「ひゃっ!」
いきなりのことにバランスを崩しかけた私は、思わず彼の首にしがみついた。
必死で背伸びしても届かなかった彼の目線を、一瞬で追い抜いてしまい、彼を見下ろすような姿勢になる。
こんな風に、子どもにするみたいに抱き上げられるのは、初めてのような気がした。
なんだか落ち着かないまま、私はもう一度、さっきの質問を繰り返してみる。
「あの、カズマ様?……どきどき、したんですか?」
少しでも彼に目線を近づけようと、首を傾げてのぞきこむ。
「わざわざ聞くな」
彼は、なんとなくふて腐れたような表情で、そう言った。
ええと、それはつまり。
さらに体温が上がった気がしながら、私は何度も瞬きをする。
すると彼が、黙って目を閉じた。
『もう一回』、という意味なのだろう。
「……っ」
恥ずかしすぎるけれど、きっと、このままでは降ろしてくれそうもないから。
私は、遠慮がちに彼の頬に手を添えて、今日三度目の、キスをした。
指先で触れた彼の頬は少しだけ熱をもっている気がして、そのことに気付いた私の心臓は、すごくすごく、速くなる。
目を開けると、彼はやっと微かな笑顔を見せて私を降ろしてくれた。
「そろそろ休憩は終わりだ」
そう言うと、彼は私の肩に右手を置いた。
そして耳元に顔を寄せると、
「後でおぼえてろよ」
と囁き、優雅に踵を返した。
「……あ、あれ?」
彼をどきどきさせた代償は高くつくかもしれないと、私は少しだけ、後悔した。
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