▼ 37:続・どきどきさせたい
彼はちゃんと、私にどきどきしてくれているらしい。
以前「どきどきさせたい」と言った私に、彼はそんなことを伝えてくれた。
そうだとしたら、すごく嬉しい。
私が彼にどきどきしているのと同じ気持ちを、少しでも彼が持っていてくれているのなら……むしろそのことに私はますますどきどきしてしまいそうだ。
だけど。
わがままな私は、もっと彼をどきどきさせたかった。彼がどきどきしているんだと、私が実感できるくらいに。
「そんなの簡単ではありませんか!リンさまがしてほしいことをなさったらいいんですわ」
マリカさんは両手をぱん、と叩いて言った。
「してほしい……手をつなぐとかですか?」
「そんなのいつもなさってるんですから、インパクトが薄いですわよ」
マリカさんの反応に、私は慌てる。
「いつもって!あの、自分からは恥ずかしくてなかなか、そんなこと……」
それを聞いたマリカさんは、心底気の毒そうにつぶやいた。
「…………カズマ殿下おかわいそう」
「えっ、かわいそうって……あ、あの、じゃあ手をつないでみることにします」
私がおずおずとそう宣言すると、マリカさんは間髪入れずに「甘いっ!」と叫んだ。
「その程度じゃだめですわ!そうですわね、いつも手すらつながないからこそ……口づけ、とか」
「く……っ!」
マリカさんがとんでもないことを言うので、私は思わず言葉を詰まらせた。
キスを……自分からしたことが、ないわけではなかった。
危険な任務に旅立つ彼の頬にキスをしたときと、彼が風邪をひいて喧嘩したとき。
ただそのときはどちらも勢い、というか必死で、しようと思って簡単にできるものではない。
顔をあかくしながら動揺している私を見て、マリカさんは私に人差し指を突き付けた。
「あの殿下がどきどきするところを見たいなんておっしゃるなら、それくらいできなきゃ話になりませんわっ!」
「え、ええ〜〜っ?」
「それを実行なさったら、もっとどきどきさせる方法を教えてさしあげますわ」
意地悪く笑うマリカさんに、私は結局のせられてしまったのだった。
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