▼
「か、カズマ様、お、思ったより……きついですね……」
私は耐えきれず、弱音を吐いた。息が上がってしまっている。
観光客には広まらなかった理由がわかった気がする。
『旅の思い出』にしてはハードな道のりなのだ。ちょっとした山登りに近い。
彼はさすがに平然と前を歩いている。
「おぶってやろうか?」
私を振り返って立ち止まる。
「いいっ!いいです!歩きます!」
私はぶんぶんと首を振る。
でもこれだけの道のりを進んだ先にある岬なら、確かに御利益もありそうだ。
やっとの思いで森を抜けると、こぢんまりとした岬へ出た。
マリカさんの言う通り他に人はいないし、夕日にも間に合った。
――だけど。
「た……たかい……!」
ちいさい岬だけに、海からの風がまともに吹きつけ、足が震える。
そんな私の様子を見て、彼が意外そうな顔をした。
「苦手なのか」
「は、はい……」
へっぴり腰になりながら、情けなく頷く。
「よく来ようと思ったな」
「いや、ここまで高いとは思わなくて……それに、せっかくの新婚旅行だから……」
もはや中腰になりながら私が言うと、彼はあきれたような顔をする。
「たかが地方の言い伝えだろう」
「でも……」
そこで彼は、急にふっと笑った。
「怖いならつかまれ」
そう言って腕を差し出す。
「は、はい……」
いつもからは考えられないくらい強く、私は彼の腕をぎゅっと掴んだ。
彼につかまっていると、怖さがだんだんおさまっていくのがわかる。
普段はどきどきさせられっぱなしで忘れそうになるけれど、彼は本当はいつも、私に安心を与えてくれるひとだった。
震えが止まって、やっと景色を見る余裕が出てくる。
「……綺麗ですね」
「ああ」
まだ沈み始めたばかりの夕日が海に映って、海がオレンジ色に染まっていた。
prev / next
(2/3)