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朝、というには少し早い時間。私はぼんやりと目を覚ました。
薄く目を開けると、目の前にあるのは彼の寝顔。
その腕は、寝ているとは思えないくらい強く私を捕らえている。
「……わっ!」
びっくりして反射的に彼から離れようとしてさらに気付く。
何も着ていない。
昨日のことを思い出して、また鼓動が速くなってくる。
彼といたら心臓がもたないんじゃないだろうか。
とにかく、彼が起きたときにこのかっこうのままなのは……やっぱり恥ずかしい。私は、今度はそっと、巻き付く彼の腕を外した。
ベッドのそばに脱ぎ捨てられた服を取ろうと上体を起こすと、ぐいっと腕を引かれる。
気付けばまた彼の腕の中におさまってしまっていた。
「まだ寝てろ」
彼が低い声で言う。
私の髪を梳きながら。
「カズマ様!起きてたんですか……!」
「今起きた」
「起こしちゃってごめんなさい。でもあの……服だけ、着させてください」
「後でいい」
彼は全く私を解放する気配がない。
「あの……だって、恥ずかしい……」
あまり動くといろいろと見えてしまうので、大人しく彼の腕にくるまれたまま、私は小さく抗議する。
「何を今更……」
呆れたような彼の声に、私の恥ずかしさは加速した。
確かに昨日、ぜんぶを見られてしまったわけで……その、服の下だけではなくて、変になってしまった私の、本当にぜんぶを、彼は既に知っている。
私の沈黙の意味を、察しのよすぎる彼は、理解したようだった。
「好きな女の全部を見たいと思うのは、おかしいことか?」
「そ……うじゃなくて……、あんな……恥ずかしいところを見せてしまったことが……私が、恥ずかしいんです……」
「俺の前でだけならいくらでも恥ずかしくなればいい」
「そ……っ、!」
彼の理論に何も言えなくなる。
からかわれているのだとはわかっていても、簡単に動揺させられてしまう自分が悔しい。
と。
ふいに彼が私の頬を撫でた。
「……どこもつらくないか?」
こんなタイミングで優しくされて、胸の奥がきゅっとなる。
「へいき、です」
小さく頷くと、彼は安心したように「そうか」と言った。
「朝食は簡単なものをとっておいてくれたらいいと、女官たちには昨日伝えてある。昼前に発つまでゆっくりできる」
その言葉に、今日が帰る日だということを思い出す。
少し胸が痛くなって、私は思わずつぶやいた。
「ちょっとだけ、帰りたくないですね……」
彼は私を腕の中に包んだまま、額にキスを落とした。返事の代わりに。
そのしぐさがすごく優しかったから、私も素直な気持ちになる。
彼の背中に腕を回して、ぎゅっとしがみついた。
離さないでほしい、という気持ちを込めて。
「帰っても離す気はないから心配するな」
彼の言葉と体温、抱きしめる強さに安心して、私は再び眠りの世界へ落ちていった。
いつもと違う朝は、こうして明けていき――そして、私たちの新婚旅行は終わりを告げた。
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