my beloved | ナノ


▼ 


聞こえるのはお互いの息遣い、きぬ擦れの音、自分のものとは思えない声。

落とされる、熱くて甘いくちづけ。


他には何も感じられなくて、この世界に二人しかいないような錯覚に陥る。


――だけど。


「ま、待ってくださいっ……!」

既に乱れてしまっている彼の服をぎゅっと掴み、私は懇願した。


「想像してたのと……全然違って、もうこれ以上は、私……」


すると彼は思いきり眉間にしわを寄せた。

「いまさらやめろって?お前俺を殺す気か。想像していた通りにしてやるから言え」


その言葉自体もこちらが赤面してしまうようなものだったけれど、私が言おうとしていることはそういう意味ではなかった。


「あの、違うんです………わ、私の心臓が、想像してたのより全然、すごいことになってて、もう……」


恥ずかしすぎて、思わず手で顔を覆う。びっくりするほど顔が赤いはずだ。


そして、本当に、心臓がこれ以上ないほどに暴れていて、息が苦しい。

私に触れていた彼は気付いているのだろうと思うと、ますます速く鼓動を打ち始めてしまう。

「これ以上は……私、おかしくなっちゃいます……だから……」



彼が、優しく、だけど強い力で私の腕をどける。

いたたまれない気持ちで彼を見上げると、彼は笑っていた。

たぶんこの表情は『愛しい』と思っているときの。

――いつの間にそんなことがわかる自分になっていたのだろう。



「おかしくなっていい。俺が全部見ててやる」

「そっ……!」

それはもっと恥ずかしいです、と言おうとしたのに、呼吸がうまくできないせいか、言えなかった。


「大丈夫だ」

彼は、すごく熱くなってしまっている私の手を取り、手のひらにキスをした。

彼の唇も、熱い。


――兄さまが怪我をしたあの時もそうだった。彼の『大丈夫』は魔法のことばだ。

恥ずかしさも不安も、おさまらない鼓動も……消えるわけじゃないのに、『大丈夫』な気がしてくる。


だから、そんなのも全部ひっくるめて、彼に触れていてほしくなる。

私も、彼に触れたくなる。


慈しむような瞳で私を見下ろす彼を、おそるおそる見上げる。

視線が合うと、たまらない気持ちに息が止まりそうになった。


――だから、私はその気持ちを、正直に口にする。


「……カズマ様、だいすきです」


その言葉を言った瞬間に、彼の手と唇がまた私に触れて、そこからは全く頭が働かなくなってしまった。



だからそれから先のことはよく覚えていない。


うっすらと記憶に残っているのは、何度も名前を呼ばれたこと。

それから、意識を失う寸前に、小さな声で囁かれた言葉。


――それはたぶん。




「愛してる」



****



prev / next
(2/3)

[ bookmark /back/top ]




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -