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砂浜は王室所有のものらしく、他に人影はない。
こんなに綺麗な砂浜なのに、もったいない気がした。
白い砂は思ったよりも熱くて、輝く波は思ったよりずっと気持ちよかった。
足をつけたり、砂で遊んだりする私を、彼が少し離れた場所に座って眺めていた。
綺麗な貝がらを見つけて、彼に駆け寄る。
「カズマ様、見てください!すごく綺麗な色!」
彼もいつもより心なしか頬を緩めている。
「めずらしい色だ。よく見つけたな、そんなの」
彼の隣に座り、一緒に波の音を聞く。
こうしていると、世界の広さを感じられて、なんだか心まで開けていく気がした。
「カズマ様、海って楽しいですね!」
「ああ、そうだな」
「ユキも連れてくればよかった」
「ああ」
「あっ、アオイ兄さまやミサキ兄さまにも見せたいなあ……父さまや母さまにも……王様やカザミ将軍もいたらもっと楽しいでしょうね!」
笑って彼の方を向くと、彼はなぜか呆れた表情になっている。
「お前、これが新婚旅行だと忘れてないか?いや、新婚旅行の意味をわかってるな?」
じとりとした目でそう言われ、私は慌てて弁解する。
「し、失礼な!わかってますよ!海もそうですけど、私はカズマ様と一緒だから楽しいんです!……それを他の人たちにも分けてあげたい、っていうのは、よく考えたら変な話ですね」
途中から、自分の思考の矛盾に気付く。
彼と一緒で楽しいのは、私が彼を好きだからだった。
「やっぱりわかってないな」
彼はため息をついた。
「お前は時々、俺よりタチが悪い」
「う……ご、ごめんなさい……あの、カズマ様といられて、ほんとにすごくすごく、嬉しいんです……だから、」
情けなくそう言うと、彼が軽く私の頭を撫でた。
「わかってる。ただ少し、悔しかっただけだ」
彼の口から『悔しい』なんていう単語が出てきて、私はびっくりする。
それを彼に伝えると、「言わせた張本人が何を」と仏頂面になってしまった。
心地よい砂浜に腰を下ろして、綺麗な海を全身で感じながら、大好きな人の隣りで過ごす時間。
今まで二人きりにはなれても、こんな風に過ごすことはなかった。
特別な時間を惜しむように、私たちは陽が落ちるまで、ずっと海を眺めていた。
「この地方の人たちって、どんな風に暮らしてるんでしょうか」
「明日、街へ行ってみるか?」
「!行きたいです!」
何よりも、彼と二人で過ごす『明日』があることが、私には幸せだった。
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