▼ chap.04 恋敵(後編)
「垂氷の野郎、何やってやがんだよ……ちくしょう」
秋津の自宅付近で張り込みをしている日向は、先程から機嫌が悪い。
もちろん今日は朝から機嫌が悪いのだが。
早瀬の勝ち誇った顔を思い出すと発狂しそうになる。
厄介な相手に取られるくらいなら、と早瀬をけしかけてみたが、やはり早瀬に取られるのが一番腹が立つような気がする。
「噛みつくくらいできる」などと強気なことを言ったのに、なぜ今こんなところでこんなことをしているのか……情けない気持ちになってきた。
(しかも精霊まで俺をコケにしやがって!)
早瀬を通して協力を頼んだ垂氷が来ないのだ。
秋津が、虐待されていたらしい精霊たちを逃がしていたことと、今日の『外せない予定』とやらを調査することは伝えてあるはずだ。
日向が朝から秋津の家の前で張り込むことも。
日向はここのところ、一人で秋津を尾行していた。
だが、公園で見かけたあの日以来、変わった動きはない。
そんな中での『外せない予定』だ。今日あたり動くのではないだろうか。
そう考えて、悔しいが何でもできる垂氷に協力を頼んだというのに。
あのネコ野郎、許せねー!と拳を震わせているそばから、秋津が出てきてしまった。
最初の頃のような不安げな表情を浮かべて、山の手の方へ向かう。
(垂氷のばかやろおお!出てきちまったじゃねえか!)
日向は、心の中で垂氷を罵りながら、慌てて一人で秋津の後を追った。
***
劇団の興行が来る、というのは、娯楽が少ない東の街の人々にとって、思いの外大きなイベントであったようだ。
街のあらゆる場所に劇団のポスターが貼ってある。
今回上演されるのは、死の床についた老人のもとを息子と孫が訪れ、それぞれ人生を賭けた恋の相手について語る、という作品だった。
祖父、息子、孫の目を通して語られる、三人の女性がヒロイン、という扱いで、彼女たちの姿がポスターにも大きく描かれている。
さらに、露店もたくさん出ていて、まるで冬の流星群の日のようなお祭りムードだ。
王都には立派な劇場があり、有名な演劇がたびたび上演されているため、こんな盛り上がりは日夏たちには新鮮だった。
観光すると言ったものの特にめぼしい場所もなく、時間をもてあますのではないかと二人は危惧していたのだが、こんなお祭り騒ぎの街を見て歩くだけでも十分楽しめそうだ。
prev / next
(1/20)