▼ chap.12 里帰りと誕生日(前編)
街が、ざわめき始めている。
年に一度の流星群がやって来る日が、近いのだ。
その日を誰と過ごすのか、どう過ごすのか――若者たちを中心に、王都はこの時期その話題で持ちきりである。
ある日の昼下がり。
日夏は、居間で読書をしながら休日を楽しんでいた。
日向は読んでいた本を顔にのせたまま、ソファで眠ってしまっている。
休日にはしょっちゅう出歩いている日夏だが、さすがにこの頃の冷え込みに、外に出る気が起こらなかった。
あたためた部屋は居心地がよく、日夏もうとうとしてしまいそうになる。
と、玄関のチャイムが鳴って、日夏はハッと我に返った。
慌てて立ち上がり、扉を開ける。
「はい、どちらさまで、」
「日夏っ!流星群が来るの、日夏の誕生日だ!!!!」
挨拶もなく、いきなり興奮気味に叫んだその訪問者は、日夏の幼なじみで恋人――早瀬だった。
「えっ?」
「さっきやっと、今年の流星群の日がわかったんだ。そしたら日夏の誕生日だったんだ!早く日夏に知らせたくて…」
前置きもなく畳み掛けられたものだから、日夏は理解に時間を要した。
「えっ、うそ!誕生日に流星群が来るの初めて!すごい!嬉しい!」
早瀬に少し遅れて、日夏も目を輝かせる。
その表情を見て、早瀬は満足そうに笑った。
「正確には日夏が生まれた次の年に一度あるんだけど。でもすごいよな、こんな特別な年はめったにないよ!――日夏、俺、その日一緒にいてもいいかな?」
「うん!もちろ……」
言いかけて、日夏は重大なことに気付いた。
「あっ…!誕生日はおばあちゃんの家に行くって昨日約束しちゃったんだ…!」
「え……」
日夏が言うと、早瀬は石のように固まってしまった。
「だって、まさか流星群が来るなんて思わなくて!ここ一年くらい顔出してなかったから…祝日もあるし二泊三日で……ええとだから叔母さんがごちそう作ってくれるって言って……その、つまり、」
「そもそも日夏は誕生日を俺と過ごしたいとは思わなかったんだな…」
妙に遠い目をして早瀬が呟く。
「違うの!だって早瀬には毎日会えるし!流星群の日は一緒にいたいなって思ってたし…」
「いいんだ、俺の片想いは今に始まったことじゃないから……」
「か、片想いなんかじゃないってば!……あっ、そうだ!おばあちゃんが友達も誘っていいって言ってたから早瀬も行こっ!?ねっ??」
実は、吉野たちを誘ったものの予定が合わなかったのだった。
真っ先に早瀬を誘わなかったのは、忘れていたわけではなく照れくさかっただけだ。親戚に何と紹介すればいいかわからない。
しかし、あからさまに落ち込んでいる早瀬を見て、思わず誘ってしまった。
が、
「あっ、でも早瀬、仕事…」
天文観測所勤務の早瀬は、流星群の日には観測会などで忙しいはずだ。
「いや、日夏の誕生日だって言ったらみんなに休めって言われて…無理矢理休みにされたんだ。しかも前日は元々休みで、次の日は祝日……行けることは行けるん、だけど」
職場の皆に冷やかされている早瀬が目に浮かぶようだった。
自分も当事者ではあるので少し恥ずかしいけれど、その時の早瀬の反応を想像すると笑みがこぼれる。
「じゃあ早瀬、一緒に行こう?」
やっぱり早瀬を、おばあちゃんたちに紹介したいな――日夏はそう思った。
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