▼
「つまり、秋津くんはあの黒星って男の、精霊への虐待を止めようとしてたのね?」
二人は家のリビングに場所を移していた。
日夏が要点を確認すると、日向は苦い顔で頷く。
日夏には話したくなかったのに、という悔しさが表情に滲み出ている。
「ああそうだ。そして法案成立と同じタイミングで虐待は止まった。本人いわく、秋津の説得のおかげで」
「だけど、そうじゃなくて、黒星は虐待よりもっと楽しい遊びを思いついただけだった、ってわけね。何をする気かは知らないけど、たぶん、遊びなんてこちらにはとても思えないようなことを」
あんな男が秋津の説得のおかげで改心なんて、絶対にあるわけがない。
「俺があいつを探ってたことまで知ってた。早瀬のことも。油断ならねえ奴だ」
日向は、日夏の話を聞き、改めて危機感をおぼえたようだ。
「ええ。だから早く行かなくちゃ!秋津くんが危ない目に遭う!」
そう言って勢いよく立ち上がる日夏の腕を、日向が掴んだ。
「だめだ!まずはタキに連絡する」
強い口調で日夏を制止する。
「他人に喋るなって書いてあるでしょ!?」
日夏も負けずに反論した。
だが、日向は取り合わない。
「そういうことは俺が何とかする。ナツは家から出るな!」
「わたしに来いって言ってるのよ!?それ以外に秋津くんを助ける方法はないわ」
「そしたらナツが危ない目に遭うってわかってるだろ!?」
「魔法があるわ」
「お前程度の魔法で悪意の塊みたいな奴に太刀打ちできるかよ!とにかく俺たちに任せてろ!」
耳を貸す気配もない日向の頑なな態度に、日夏は泣きたくなった。
秋津と黒星のことを隠されていたことにも。
日向たちの優しさだとはわかっているけれど、足手まといだと言われているような気がした。
「……どうしてそうやって、わたしには何もさせてくれないの」
日夏の震える声にも、日向は表情を変えずに即答した。
「危ないからだ」
「危ない危ないって、クロだって危なくなるのは同じでしょ!?わたしだって、役に立ちたいの」
「役に立つとか、そんな呑気なこと言ってる場合じゃ、」
日向の呆れるような言葉を遮って、日夏は叫んだ。
「呑気じゃない!わたしが行って大切な人たちを助けられるなら、そうしたいのよ!……秋津くんだけじゃなくて、クロや早瀬だって、守りたいの」
最後の一言は、頼りなく掠れてしまう。
prev / next
(9/15)