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日夏は仕事を終え、家路を急いでいた。
今日は秋津が休みの日。
あれから、ちょうど一週間だ。
一日気を張って過ごしていたが、何も起こらなかった。
ほっとしたが、やはり外にいると不安感はつきまとい、早く家に帰ってしまいたかった。
早歩きの日夏を、日向が追い掛ける。
「ナツ、なんでそんな今日急いでんだ?寄り道してかねえのか?」
「お腹すいたから早くごはん食べたいの!」
適当に答えて、さらに少し速度を上げる。
急に、この一週間、早瀬とろくに会話をしていないことに気付いた。
出会って挨拶くらいはしたが、早瀬も仕事が忙しかったようで、それ以上に関わることはなかった。
(早瀬に相談しておけば、こんなに心細くならなかったのかな……)
何かを一人で抱え込むことは、苦しいだけではなく心細いのだと、日夏はこの一週間で感じていた。
早瀬に変な態度を取っておきながら、彼に寄り掛かろうとする自分がいる。
そのことに自己嫌悪を覚えるが、なぜだか、無性に早瀬に会いたい気持ちが、止められない。
(後で、早瀬の家に行ってみようか……)
そんなことを考えていた日夏は、家の前でふいに立ち止まった。
「ってぇ!おい、ナツ!鼻打ったぞ!」
急停止した日夏の背中に激突した日向が抗議の声をあげる。
その声は、日夏には聞こえていない。
日夏は、門にとまっているカラスに、視線を向けていた。
何か、嫌な感じがする。
すると、日夏に気付いたようにカラスが飛び立った。
こちらへ飛んでくる。
その速さに日夏が反射的に目を閉じると、手の中に、何かが投げ込まれる感覚があった。
「な、なんだ今のカラス!……って、ナツ?」
「……」
目を開けた日夏は、手の中にある一枚のカードを見つめていた。
「……あいつだ」
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