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秋津が精霊に案内されたのは、いつもの居間ではなく、地下のひんやりとした部屋だった。
ここは確か、黒星が悪い仲間とともに精霊たちを虐待していた部屋。
嫌な記憶に身を震わせていると、遅れて黒星が入ってきた。
「黒星。今日はいつもと場所が違うけど、ここで話すの?」
黒星は笑顔だ。
だが、質問に答えない。
黒星は、微笑んだまま秋津に近づき、そのまま彼を殴り倒した。
バキッという、嫌な音が地下に響く。
「……っ!」
秋津は床に崩れ落ちた。
「黒星、な、にを……」
今度の質問には、黒星は返事を与える。
「言ったじゃん、『いいこと』って」
相変わらず、顔には笑みが貼りついている。見ているとうすら寒くなるような笑み。
黒星は、ポケットからロープを取り出し、腰が抜けて抵抗できない秋津を縛る。
「……僕を、精霊たちの代わりに痛めつける、つもりなの?」
苦痛に顔を歪めながらさらに問う秋津を、黒星が嘲笑った。
「ははっ!お前なんか殴ったってつまんないよ。お前は、主賓を釣るためのエサだよ」
「……主賓、って」
「好きな子と、楽しいことしたいでしょ?」
黒星の言葉に、秋津は色を失う。
「っ!黒星、まさか日夏さんに何か……っ!」
「そんな怖い顔しないでよ、似合わない。……まあ、あのおねーさんもある意味エサだけどね」
秋津の背筋に悪寒が走った。
さらにまだ、誰か巻き込もうとしているのか。
黒星は、そんな秋津の表情を満足そうに眺めた後、部屋にぽつりと置かれたソファに腰掛けた。
「というか、全員がエサだし、全員が主賓だよね。ああ楽しみだなあ!……ねえ秋津、まずはあのおねーさんがどれだけ早くエサに釣られてくれるか、賭けよっか?」
秋津にはもはや、日夏が来ないことを祈る他に、できることはなかった。
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