星月 | ナノ


▼ 

卯木は、王宮の警備隊に入って二年目になる男だった。

王やその一族が命を預ける存在。
そんな風になりたくて、努力して掴んだ職業だ。

王宮の安全を守るこの仕事に、卯木は大いに誇りを感じていた。


だが、ここ最近の自分の仕事は、正直に言って気乗りがしないものだった。

「王家への謀反を企んでる奴ってわけでもないのに、何で俺たちがこんなとこで見張ってなきゃいけないんだ……」

思わず、同僚の須賀にこぼす。

二人に与えられた仕事は、この大きな屋敷の住人・黒星の監視だ。

もちろん交替制ではあるが、この一週間毎日、この屋敷で意味のなさそうな見張りを続けている。

何か怪しい動きがあれば、一人が王宮へと走る手筈となっているのだが、今までそんなことには一度もならなかった。


「交替したとたん愚痴こぼすなよ。凍瀧様のご命令だろ。何かお考えがあるんだ」

須賀が卯木をなだめるが、彼は肩をすくめた。

「そりゃあ凍瀧様は尊敬してるさ。けど、この仕事はあまりにもやり甲斐がない。俺たち、凍瀧様に評価されてないんじゃないのか?」

「馬鹿言うなよ。俺たちは同期の出世頭だって、隊長が言ってただろ」

「こんな仕事させられてちゃ、その言葉を疑いたくもなるさ」

卯木は、王宮を守りたくてこの仕事をしているのだ。こんなわけのわからない奴の監視なんかがしたいのではない。

とは言え、隊長から直々に選抜された任務のため、嫌とは言えず、こうして物陰から監視を続けている。



と、屋敷に一人の客人がやってきた。
少し気弱そうな青年だ。

「あれは確か……黒星の友人だったか」

須賀が目を細めて確認する。

「ああ、……おい、精霊に出迎えをさせてるぞ。本人はいないのか?」

出迎えた精霊は、確か黒星が唯一手放さなかったという、カラスの姿をした精霊だ。カラスが人間を出迎える図は、なかなかに滑稽であった。

卯木の問いに、須賀が返事をする。

「いや、交替の奴らの話じゃ、今日は朝から家に――――」


須賀は、最後まで答えることができなかった。

鈍い音とともに、どさりと草の上に倒れる。


「おい、須賀!……っ!」

慌てて背後を振り返った卯木の目に、辛うじて見えたものは、振り下ろされる木の棒と、不気味な笑いを浮かべた男の顔だけだった。


――そして、卯木も、意識を手放した。



prev / next
(5/15)

bookmark/back / top




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -