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卯木は、王宮の警備隊に入って二年目になる男だった。
王やその一族が命を預ける存在。
そんな風になりたくて、努力して掴んだ職業だ。
王宮の安全を守るこの仕事に、卯木は大いに誇りを感じていた。
だが、ここ最近の自分の仕事は、正直に言って気乗りがしないものだった。
「王家への謀反を企んでる奴ってわけでもないのに、何で俺たちがこんなとこで見張ってなきゃいけないんだ……」
思わず、同僚の須賀にこぼす。
二人に与えられた仕事は、この大きな屋敷の住人・黒星の監視だ。
もちろん交替制ではあるが、この一週間毎日、この屋敷で意味のなさそうな見張りを続けている。
何か怪しい動きがあれば、一人が王宮へと走る手筈となっているのだが、今までそんなことには一度もならなかった。
「交替したとたん愚痴こぼすなよ。凍瀧様のご命令だろ。何かお考えがあるんだ」
須賀が卯木をなだめるが、彼は肩をすくめた。
「そりゃあ凍瀧様は尊敬してるさ。けど、この仕事はあまりにもやり甲斐がない。俺たち、凍瀧様に評価されてないんじゃないのか?」
「馬鹿言うなよ。俺たちは同期の出世頭だって、隊長が言ってただろ」
「こんな仕事させられてちゃ、その言葉を疑いたくもなるさ」
卯木は、王宮を守りたくてこの仕事をしているのだ。こんなわけのわからない奴の監視なんかがしたいのではない。
とは言え、隊長から直々に選抜された任務のため、嫌とは言えず、こうして物陰から監視を続けている。
と、屋敷に一人の客人がやってきた。
少し気弱そうな青年だ。
「あれは確か……黒星の友人だったか」
須賀が目を細めて確認する。
「ああ、……おい、精霊に出迎えをさせてるぞ。本人はいないのか?」
出迎えた精霊は、確か黒星が唯一手放さなかったという、カラスの姿をした精霊だ。カラスが人間を出迎える図は、なかなかに滑稽であった。
卯木の問いに、須賀が返事をする。
「いや、交替の奴らの話じゃ、今日は朝から家に――――」
須賀は、最後まで答えることができなかった。
鈍い音とともに、どさりと草の上に倒れる。
「おい、須賀!……っ!」
慌てて背後を振り返った卯木の目に、辛うじて見えたものは、振り下ろされる木の棒と、不気味な笑いを浮かべた男の顔だけだった。
――そして、卯木も、意識を手放した。
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