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「前に進めた、って、どんなことがあったの?聞きたいな」
日夏は興味津々なふりをして、さらに探る。今のはわざとらしくなかっただろうか。
「まだ、ほんとに小さな一歩なんです。僕はまだ何もしていない。……だから、何かを形にできたら、そのときは一番に、話を聞いてくれますか?」
秋津はそう言って日夏を見つめた。
「え、ええ、もちろん!」
日夏は、秋津の熱を帯びた視線には気付かない。
彼女の頭の中を占めていたのは、別のことだったからだ。
(もし、あの男が今、秋津くんに何かの形で関わっているのだとしたら、それは秋津くんを欺く形で、ってことじゃないかしら)
あの悪意に満ちた目とは対照的な、秋津の希望に満ちた表情。
それが何となく、嫌な感じだ。
日夏は、直感で動くタイプだ。
理論武装は得意ではない。
だから、はっきりした根拠はないけれど、何かが危険だ、そう思った。
しかし、秋津に直接聞き出せない以上、男の素性を知る術はなく、決定的な何かを掴むことはできなかった。
そしてそのまま、時間は過ぎていく。
日夏の周囲にこれといって変化はないまま、あの男が現れてから、一週間が経過しようとしていた。
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