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「早瀬、お前何で昨日タキのとこ行ってたんだ?黒星のことでなんかあったのか?」
「……クロ、何時だと思ってるんだ」
翌日の早朝、早瀬がまだベッドでまどろんでいる時間、いきなり部屋の窓から日向が入って来た。
そして挨拶もなく問いをぶつける。
早瀬は眠い目をこすって抗議した。
「昼間に来ればいいだろ?なんでこんな時間に……」
「気になったら早く目が覚めたんだよ、悪いか」
「悪いに決まってるだろ」
日向は悪びれる気配もないが、早瀬は目が覚めてしまい、しかたなく起き上がってベッドに腰掛けた。
「なんとなく、黒星って奴のあっさりした行動に違和感があってさ。凍瀧さんにもまだ注意しててもらおうと思ったんだよ」
事情を話すと、日向は顔をしかめた。
「お前が気にするってことは、あいつがナツに何かすると思ってるってことか?」
「いや、日夏に興味はなさそうだったから、むしろ秋津絡みで日夏が巻き込まれるのが心配なんだ」
日向は、納得の表情を見せた。
おせっかいは日夏の得意技だ。
「なるほどな。じゃあ、しばらくは俺も秋津をよく見とくか」
「頼む」
早瀬が答えると、日向はふいに苦々しい顔になり「ところでなあ……」と低い声で切り出した。
「お前、ナツに何しやがった?」
「え?」
早瀬はぎくりとする。
『何』と言われれば、帰りの列車でのことを思い出す。
垂氷がばらすはずがないが。
日向は、逡巡する早瀬には気付かず、さらに問いかけた。
「ナツがお前にだけ、あからさまに変だ。まさか手出してないだろうな!?」
そっちか、と早瀬は内心ほっとする。
「手を出せるわけないって言ったのはクロだろ?日夏がおかしい理由は、俺が教えてほしいくらいだよ」
完全に『手を出してない』と言えるかは微妙だが。
日向は舌打ちをし、「とにかくナツになんかしたら殴るからな!」と釘を刺し、さっさと帰っていった。
「……朝から騒々しい奴だ」
早瀬はため息をつくと、少し早い身支度を始めた。
ここのところ、モヤモヤとはっきりしないことばかりで、調子が狂う。
日夏が笑ってくれたらそんなのは吹き飛ぶのに、と思うけれど、日夏もモヤモヤの理由のひとつだから困る。
とにかく、こういうときに、思いもかけない事態が起きたりするのだ。
気を引き締めておこう、と早瀬は自分に言い聞かせた。
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