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日向と別れ、日夏は自分の仕事をするため書庫に向かう。
書庫の整理は、本が好きな日夏にとって楽しい仕事のひとつだ。
書庫の整理を任されると、たいてい夜まで熱中してしまう。
「さあ、がんばるぞっと!」
気合いを入れて、書庫のある地下へ続く階段をかけおりていく。
日夏は、こんな毎日に満足していた。
――だけど最近、何かが足りない気がするのは、どうしてなんだろう。
***
流星群の日が一週間後に迫り、王都もなんとなく浮足立っていた。
三日前からは大通りに屋台なども立ち、本格的にお祭りムードになる。
日夏は、徐々に熱気を帯びはじめている街の空気を感じながら、帰途についていた。
(最近はこういうのに縁がなくなってきたなあ)
流星群の夜は、ほとんどの人が恋人か家族と過ごす。
日夏も、幼いころは家族や早瀬の家族たちと流星群を見たし、学生時代には友人たちとお祭りムードの街へ繰り出した。
だが最近は、友人たちにも恋人ができたりして、家族のいない日夏にとっては、少しこの時期の空気が居心地悪く感じられるようになってきた。
去年は、日向とふたりで家の屋根に登って流れ星を眺めた。
早瀬は天文観測所の観測会の担当になっており、そちらに参加していた。
(流れ星はいくつになってもわくわくするんだけど……。今年もおとなしく家で見てようかな)
そんなことを考えていると、後ろから誰かに肩をたたかれる。
「日夏!」
振り返ると早瀬が立っていた。
「今帰りなんだな。一緒に帰ろう」
日夏は思わず辺りを見回す。
『見守る会』の女の子たちはいないようだ。まあ同じ方向なんだし、一緒に帰るくらいは大丈夫だろう。
二人は並んで歩き始めた。
「今日おじさんの書斎にちょっと寄らせてもらっていいかな?研究中にわからないことが出てきたんだ」
「いいよ。ごはんは?食べてく?」
「いいの?ありがとう、そうさせてもらおうかな」
早瀬が日夏の父の書斎に入り浸るのは学生の頃からしょっちゅうだ。
逆に日夏も、早瀬の母にお茶によばれたりして、よく彼の家に行く。
だから昼間女の子たちに言ったように、本当になんの特別なこともないのだ。
ただ、外での早瀬の人気者ぶりを見ていると、なんとなく身分不相応な立場にいるような気がしてくる。
「そういえばクロは?」
「今日は職場の人の家の屋根を直しに行ってる。ごはんごちそうになって帰るから遅くなるんだって」
「ははっ、何でも屋だな!あいつ」
「精霊らしくないわよね」
「垂氷もだけどな。しょっちゅうフラフラ出かけていって。今日で一週間家に帰ってきてない」
「垂氷だから心配ないけどね」
「年の功だからなー」
他愛もない話をしているうちに、日夏の家の近くまでたどりついた。
このあたりは比較的閑散としているので、出会うとしても気心の知れたご近所さんくらいだ。
だからまわりの目を気にする必要はまったくなかった。
(でも最近、ふたりでいるときもなんとなく気がひけるような……いろいろ気にしすぎて癖になっちゃったのかな?)
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(7/13)