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卯浪にとって、日夏は吉野の大事な親友だし、早瀬はかわいい後輩だ。
もちろんうまくいってほしい。
だが、『二人きりの休日に他の奴らの話なんかするな』などと狭量なことは言えず、話を切り上げるためについ「背中を押す」と言ってしまい、卯浪は少し後悔していた。
(お節介にならない背中の押し方を考えなければ……)
真面目な卯浪は、小さな悩みを抱えてしまったのだった。
***
『もうちょっと早瀬くんのこと、よく見てあげたらいいんじゃないかしら?』
日向と食卓で向き合いながら、日夏は、先日吉野に言われたことを考えていた。
(早瀬をよく見る、って……むしろ今まともに見れないくらいなのに)
でも確かに今、自分の気持ちばかりで、早瀬のことをちゃんと見ていない気はする。
だから勝手に早瀬の気持ちを決めつけたりして、一人で不安になってるのかもしれない。
もしかして、この間から思ってることを全部話しても、早瀬は「俺もそういうこと考えるよ」なんて言ってくれるかもしれないのに。
(……いやいやいや、さすがにそれはないわよね!)
自分は早瀬にどうしてほしいのだろう。
こんな風に思ってることも全部、受け入れてほしいんだろうか。
自分の気持ちもわからないのに、早瀬をよく見て、何かわかるのだろうか。
「日夏、冷めるぞ?」
できたての食事に全く手をつけようとしない日夏を見かね、日向が声をかける。
「あ、そうだね……」
日夏は我に返った。
最近よくぼうっと考え込んでしまう。しっかりしなくては。
スプーンを手にしたところで、家の呼び鈴が鳴った。
「誰だよ食事中に」
食事をかきこみながら、日向がむっとした表情になる。
「わたしが出るから、クロは食べてて」
日夏は席を立った。
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