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「このままだと二人はずっと平行線っていうことになるわ。日夏があんなに鈍感じゃなければ……早瀬くんの気持ちなんて誰が見ても一目瞭然なのに、なんで日夏だけ気付かないのかしら」
だからこそ、早瀬をもっとよく見てあげてとアドバイスしたのだ。早瀬の気持ちに気付けば、日夏が臆病になる必要もない。
「今まで無意識に早瀬をそういう対象から外していたんじゃないか?家族を亡くした日夏にとって、幼なじみの存在は失いたくないものだったんだろう」
だが、もうその関係には違和感が生じている。
その違和感の正体に、日夏が気付けないのが問題なのだ。
「ほんとは単純なことなのに、なんで当事者二人の間でだけ、こんなに込み入ってしまってるのかしら……」
吉野はため息をつく。
「俺たちは、余計なことをせずにそっとしておけばいいと思うぞ」
そんな吉野を見て、卯浪は冷静に言う。
「でも……」
「あいつらも子供じゃない。このうえ第三者が首を突っ込むとさらにおかしなことになる。そう思ったから、お前も日夏の気持ちを決めつけるようなことは言わなかったんだろう?」
「ええ……」
日夏に『その気持ちは恋だ』と言ってしまえば話は早かったのかもしれないが、他人に決めつけられることではないと思い直し、あえて言わなかったのだ。
「まあ、個人的に早瀬には報われてほしいからな。背中を押すくらいならしてみるから」
卯浪は、吉野を宥めるように言った。
「卯浪さん……、ありがとう!」
吉野は嬉しそうに微笑む。
だいぶん気持ちが軽くなった様子だ。
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