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しかし日夏は、困惑気味な表情でこう言った。
「卯浪さんかあ……じゃあ、今回の場合は参考にはならないわよね」
どうしてそうなるの!?と、危うく吉野は叫んでしまうところだった。
吉野が卯浪に感じた気持ちと同じ、つまり恋だと思うのではなく、自分の気持ちは恋ではないから、吉野の気持ちを参考にすることはできないと思った、らしい。
どうしてそういう方向に行ってしまうのか。
あまりに『その可能性』を排除している日夏に、吉野は頭を抱えた。
「日夏……あのね、日夏はまず、もうちょっと早瀬くんのこと、よく見てあげたらいいんじゃないかしら?」
直接聞いたこともない早瀬の気持ちを勝手に伝えるわけにもいかず、とりあえず吉野は、この状況における精一杯のアドバイスをした。
日夏は首を傾げていたが、吉野はもう、これ以上なにを言っていいかわからなかったのだった。
***
「鈍感なだけじゃなくて、思ってた以上に、日夏は臆病……みたい」
日夏は、はっきり見えているはずの結論にたどり着くのを恐れている、そんなふうに見えたのだ。
他のことにはまっすぐぶつかっていくのに、早瀬のことにはやたらと逃げ腰だ。
以前、彼を避けていたときもそう。
しかし、日夏はそれを自覚していないらしい。
「臆病か。それは早瀬もそうかもしれない。日夏のとは少し違う気もするが。今の関係がとても大切なんだろう。だから好きでも踏み出せない、というか好きだから踏み出せない、ように見える」
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