▼ chap.05 事件(前編)
大通りに面したオープンカフェは、何組ものカップルで賑わっていた。
どのカップルも、お互いしか見えない様子で幸せそうに笑っている。
そんな中、吉野は浮かない顔で恋人の卯浪と向き合っていた。
二人の間には、何の問題もない。
今日も吉野は、卯浪からもらったイヤリングをつけているし、卯浪は穏やかな表情で吉野を見つめている。
吉野を浮かない顔にさせているのは、もっと別のことだった。
「吉野、何かあったのか?眉間にシワが寄ってるぞ」
彼女の様子を見かねた卯浪が口を開いた。
吉野は、はっと顔を上げ、申し訳なさそうに卯浪を見る。
「ごめんなさい、せっかく一緒にいるのに……」
「いや、それはいいんだが」
吉野は、少し逡巡してから、卯浪におずおずと問い掛けた。
「……あの、卯浪さん。前からうすうす感じてはいたんだけれど、日夏って、もしかしてすごい鈍感なのかしら……?」
「日夏?かなり鈍感だと思うが。今更どうしたんだ?」
即答され、吉野は複雑な表情をした。
「それがね……」
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