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黄色い声でにぎわう天文観測所。そのとなりにある背の低い建物――王立図書館二階の窓から、一人の少女が顔をのぞかせている。
「相変わらずだわ……」
彼女は、観測所の人だかりを見て呆れたように呟く。
「あのへらっとした男のどこがいいんだ!?王都の女って趣味わりー!」
隣では、黒髪の活発そうな青年が舌を出して顔をしかめている。
「早瀬は男からももてるけどね、友達多いでしょ。早瀬にそんなこと言うの、クロぐらいよ」
「俺は昔っからあそこの一家は全員気にくわねーんだ!」
「クロ、しっぽ出てる。しまって」
「お、わりい。にしても、あんなうるさい女どもに囲まれてよく平然としてんな、あいつ。俺なら発狂する」
青年は、ぞっとしたように言う。
「周りに人がいるのには慣れてるからじゃない?女の子たちも、ふだんはけっこう遠巻きに騒いでるだけだから実害もないし」
「でも日夏には実害あるぞ」
「……まあ、そうなんだけどね」
二人がそんな会話を交わしていると、人だかりの中心にいた早瀬が、ふと顔を上げた。窓際の二人に気付いた様子だ。
「日夏っ!」
うれしそうに、笑顔で少女に手を振る。
「っ!早瀬の馬鹿……っ!」
彼女は思わずかがみこんで姿を隠した。
「外では近づかないでって言ってるのに!」
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