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秋津は肩を落として帰っていった。
「また来るよ」と言って。
度胸は買うが、あんな男相手に正面から説得なんて、明らかに無謀だ。
おまけに、精霊を虐待している人間にその保護を提案するとは。
あえて言ったのはわかるが、それによってますますトラブルにならないといいのだが。
日向にはそこが一番の問題である。
「とは言えとりあえず、あの頭おかしい男が秋津の説得に耳を貸すことはなさそうだ。ナツに直接面倒が降りかかることは、今はないか」
精霊の『耳』から離れ、二人は自分たちの身体に意識を戻していた。
「だが、秋津が宰相に繋ぎをとろうとした時、それもあの男の説得を諦めた結果そうした時が問題だ。それに、それまでの間ここにいる精霊たちはあの男に虐待され続ける」
垂氷は微かに眉を潜めている。
他人に無関心そうな垂氷だが、やはり精霊たちが虐待されている状況は気になるようだ。
「そこなんだよな。なんとかこっちでさっさと解決しちまえねーかな?タキに連絡とるか……でもタキが出てきたら、秋津が手を回したと思われちまうよな、あの男に」
日向は頭を抱える。
秋津に何かあっても、日夏を悲しませることになる。
「とりあえず、宰相の従者に話を通しておくか」
「灯に?」
「いざとなれば、あの程度の男は俺の力で何とでもできる。そのときに穏便に事を収めてもらうために、だ。今から宰相に言ったら、あの熱血精神で首を突っ込んできてややこしくなる。あいつが出るのは最後でいい」
「何とでもって……」
日向はその方法を想像しきれずに、わけもなくぞっとする。
こいつの力は本当に底知れない。
「だができるだけ強行手段はとりたくないだろう?下手に俺が目立てば早瀬にも面倒が降りかかる。まずは、従者も含め俺たちで策を考える」
「なるほど。三人寄ればなんとやらって言うもんな!」
「お前の頭は一人分に相当しない」
「なんだと!?おい!訂正しろ!俺は頭がいいんだぞ!?」
とりあえず、灯のもとへ向かうことで、二人の意見は一致した。
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