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「そしたら急に宰相に直談判しようなんてさ。それも拾ってきた精霊を虐待してる張本人の俺に。頭おかしいんじゃない?」
完全に馬鹿にした様子の黒星に、秋津は毅然とした口調で言った。
「最初は、精霊たちが傷つけられてるのが辛くて、でも君が怖くて、こっそり逃がすことしかできなかった。――だけど、それじゃだめだってわかったんだ。
黒星にちゃんとわかってもらって、精霊たちを解放してもらわないと、いつまでも状況は変わらないって」
しかし、黒星はそんな言葉に心を動かされる気配は全くない。
「俺を説得しようなんて、身の程知らずだって思わないの?」
威圧感を帯びてきたその声に、秋津はさらに怯えたようだった。
だが再び食い下がる。
「ちゃんと気持ちを込めて話せば、相手に伝わるって、ある人のおかげで気付いたんだ。だから、身の程知らずでも、諦めたくない」
やっぱり日夏の影響か。
日向は深くため息をついた。
日夏は、手のかかる奴の目を覚まさせてしまったようだ。
一方の黒星は、引く様子のない秋津に苛立ってきているようだった。
「……『ある人』ね。好きな女か何か?舞い上がって、正義の味方ぶってるだけだろ。頭冷やせば?」
秋津がソファから立ち上がる気配がした。
「……僕は、君が聞き入れてくれるまで毎日来るよ。それでも……もし、わかってもらえなかったら、僕から日夏さんにお願いして、宰相さんに話を聞いてもらう。それで宰相の力でもなんでも使ってもらって、ここにいる精霊たちを連れて帰ってもらう」
それを聞いた黒星は、ケラケラと笑った。
聞いている者の気持ちをざわつかせるような笑い声だ。
真剣な秋津が可笑しくて堪らないようである。
「説得かと思ったら脅しに来たわけ?笑えるなあ!
――――どっちも無理だよ、お前には」
そして最後は、とびきり冷酷な声で言い放った。
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