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目を閉じた日向の意識に、屋敷内の音がはっきりと流れ込んできた。
垂氷が借りた精霊の『耳』が、秋津たちの声を拾おうとしているのがわかる。
やがて、男の声が鮮明に聞こえてきた。
「何の用?秋津。俺がこの時間まだ寝てるって知ってるよね?わざわざ起こして何をしに来たわけ?」
不機嫌そうな声色で話しているこの男が、黒星だろう。
「ごめん、黒星……今日は、精霊たちのことで、提案があって来たんだ……」
聞き慣れた声がそれに答える。
やはり精霊のことでここに来たのだった。
「提案?お前、最近生意気じゃない?この前も精霊たちを自由にしてやれだとか寝ぼけたこと言ってたよね?」
黒星は、少し声を低めて言った。
その様子に、秋津が怯む気配が伝わってくる。
しかし、彼は気持ちを奮い立たせるように息を吸って、話しはじめた。
「生意気に見えたなら、謝るよ……でも聞いてほしいんだ。同僚の人が、宰相の凍瀧さんと知り合いらしいんだ。その人に頼んで、宰相さんに精霊たちが捨てられてることを伝えて、何か対策を考えてもらおうよ」
(こいつ……!日夏を巻き込むなっつってんだろうが!馬鹿野郎!)
日向は心の中で舌打ちする。
やばいじゃねえか、と黒星の答えを警戒しながら待った。
しかし、黒星の反応は、冷めたものだった。
「は?お前、馬鹿じゃないの?俺は捨てられた精霊たちをこき使って痛めつけるのが楽しいんだけど」
やはり、こいつが精霊たちを虐待しているようだ。
だとしたら、今のは虐待している張本人に言うことではないだろう。
こいつの言う通り、秋津は馬鹿なのか、と日向は思う。
「僕を仲間に誘いに来たとき、『精霊たちが捨てられてることが許せない。助けたい』って言ってたよね?……確かに今はその頃の君とは違うかもしれないけど、その気持ちはまだ君の中にあるって、信じてるんだ」
「……何言ってんの?お前」
「宰相さんに言って、ここにいる精霊たちを保護してもらおう?それがきっかけで、黒星があのときの気持ちを思い出してくれたら……、」
秋津は、精霊だけでなく黒星も救いたいと考えているようだ。
ただし、本人がそれを望んでいるとはとても思えないが。
「お前ほんとに意味がわかんないんだけど。お前さ、俺の目を盗んで精霊たち逃がしてたよね?つまり俺に何言っても無駄って思ってたんだろ?おもちゃがいくつかなくなったぐらいどうってことないから気付かないふりしてあげてたけど」
「……知ってたんだ」
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