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その後、月華は、設営中のセットや小道具、衣装など、劇団の舞台裏を案内してくれた。
早瀬は興味深そうに、月華に質問していた。
月華も楽しげに答えている。
(何もあんなに近づかなくても会話できるんじゃ……)
日夏はさっきから、余計なことばかりが気になる自分に戸惑っていた。
一人だけ取り残されたような気がするから、八つ当たりしているのだろうか。
だとしたら、自分はなんて子どもっぽいんだろう、と思う。
(こんな子どもっぽければ二人の間に入っていけないのも当然よね。二人が並んでると、なんか絵になってるし)
またも関係ないことを考えてしまって、日夏は無理矢理それを打ち消そうとした。
「日夏、どうした?気分でも悪い?」
気付くと早瀬が日夏を心配そうに覗き込んでいた。
気持ちが顔に出てしまっていたようだ。
「ううん、大丈夫。めずらしいものばっかりだから、びっくりしてるの」
「それにしては浮かない顔してるぞ?きついんだったら早めに言えよ?」
「うん、ありがとう……」
そのやりとりを見ていた月華は、くすりと笑った。
日夏は、子どもっぽい感情を見透かされいるような気になる。
こんなに綺麗で魅力的な人なのに、なんだか苦手だ。
すると、月華が突然言った。
「ねえ、早瀬くん。ちょっと日夏ちゃんとお茶してきていいかしら?」
「え、……何でですか?」
いきなりの申し出に、早瀬が不審な顔をする。
「最近の早瀬くんのこととか聞きたいじゃない。外に出たら日夏ちゃんの気分もすっきりするかもしれないでしょ。大丈夫よ、早瀬くんの困るようなことは言わないから」
「日夏が困るようなことを言われても、大丈夫じゃないんですけど」
「失礼ね、何も取って食おうとしてるわけじゃあるまいし、お茶してちょっと話すだけよ。日夏ちゃん、いいでしょ?」
月華は、日夏の手をとってにこりと笑う。
「……はい、わたしも演劇の話とか聞きたいですし」
正直、月華と二人で話すのはあまり乗り気ではなかったが、早瀬と月華を見ていて変な気分になるよりはましかもしれない、と日夏は思った。
月華と仲良くしているくせに、日夏を気遣う素振りを見せる早瀬に、嫌な態度をとってしまいそうだったから。
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