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「あっちで何かやってるみたい、行ってみようよ!」
日夏は人だかりの方を指差す。
劇場前に即席の舞台がつくられ、そこで劇団員が今日の公演の宣伝をしているようだった。
その横にある当日券売り場には「立見席はまだ若干残っております」と貼り紙がしてある。
「立見が出るなんてすごいな」
早瀬が目を丸くした。
舞台の上では、上演作品の簡単な予告が行われていた。
三人目のヒロイン役と思しき女性が寸劇を演じている。
予告も大詰めのようだ。
「綺麗な人ね」
「そうだなあ」
やがて予告が終わり、主要キャストと座長が一列に並んだ。
座長が上演時間の案内などを読み上げ、最後に全員で礼をした。
さっきの女性が顔を上げる。
「え……!?」
日夏は目を疑った。
お辞儀をする前と別の女性になっているではないか。
周りの人たちは、歓声をあげている。どうして驚かないのだろう。
思わず、横の早瀬を見ると、彼は舞台を見上げたまま呟いていた。
「もしかして……月華さん」
「え?」
と、舞台を下りて劇場に戻ろうとしていたさっきの女性が、こちらを振り返った。
目を丸くした後、笑顔で駆け寄ってくる。
「早瀬くんっ!」
(知り合い、なの……?)
日夏はさらにわけがわからなくなった。
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