▼
「というわけで、今度の祝日、お前は秋津の用事が何なのか調べてくれ。俺は演劇を見てくるから」
「ちょっと待て!なんだそれ!代われよ!」
家の外へ出て、早瀬が今日のことを説明すると、案の定、日向は激怒した。
「秋津が招待券をくれたのは日夏と俺にだ。それに昼間俺をけしかけたのはお前だろ。……そう簡単に噛みつかれてたまるか」
最後に本音をもらすと、日向は少し意外そうな顔をした。
「……チッ、お前の正直さに免じて今回は調査係になってやる。その代わり垂氷を貸してくれ。大嫌いだが役に立つ」
垂氷は、もともと霊力が強い上に、かなり長く生きているため、さまざまな力を使うことができる。
星の民の魔法と精霊の力は異なるため、早瀬も詳しくはわからないが、垂氷ほど力を持った精霊は、まだ見たことがない。
「わかったよ。今日は家にいたから頼んでおく。ところで、『変なこと』っていうのには見当はついてるのか?」
早瀬は気になっていたことを尋ねる。
「よくはわかんねーけど、こないだあいつ、どっかから精霊を連れてきて逃がしてたんだ。たぶん、一箇所に集められて酷い扱いを受けてた奴ら」
日向は、春先に遭遇した出来事について語った。
あのときもっと調べておけばよかった、と悔しそうに呟く。
「精霊を……確かに月の民が精霊と関わってるっていうだけで妙だしな。精霊を酷い目に遭わせてる誰かがいて、秋津はそいつと何か関わりがあるかもしれないってことか」
「そうだ。精霊のことは、月の民と星の民の間でも微妙な問題だからな。巻き込まれたら確実に面倒だ。とりあえず、できる限り探ってみる」
日夏を面倒から遠ざけたい、という気持ちは二人に共通しているため、今回は日向も、早瀬と協力体勢をとることに承知した。
早瀬の方も、日夏から秋津の情報を聞き出す、ということで話はまとまり、今日は解散となった。
帰ろうとする早瀬を呼び止め、日向が釘を刺す。
「おい早瀬!日夏になんかしたらぶっ殺すからな……って、できるはずねえか。二人きりで星見ても何もできねー意気地なしだからな、お前は!」
後半は、悔しさ半分の嫌味になっている。
わかってるよ、と肩を竦め、早瀬は自宅への道を歩き始める。
認めたくはないが、実際、日向の言うことは否定できない。
とにかく、日夏に離れていかれるのが、怖い。
以前、日夏に避けられた時も、最初は気持ちに気付かれて距離を取られているのではないかと不安だった。
それに、一度気持ちを伝えてしまったら、日夏に拒絶されても、いろいろと止められないかもしれない。
そんなことになれば、日夏を傷つけてしまう。絶対に避けなければならないことだ。
それなのに、もうずっと前から『ただの幼なじみ』では満足できなくなっている。
傷つけたくないし、傷つくのも怖い。
それでも、日夏が欲しいという思いを抑えておける自信がない。
意気地なしの上に、自分の気持ちさえコントロールできないなんて、最悪だ。
こんな八方塞がりの自分で、日夏に何かあったとき、守れるのだろうか。
***
prev / next
(8/9)