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「いたいた。双葉さんと話してる。ちょっと呼んでくるね!」
閉館後の図書館に入ると、奥の席に青年と年配の女性が座っているのが見えた。
本を見ながら、青年が女性に何かを教わっている様子だ。
あれが秋津か。
双葉に何やらからかわれているらしく、あたふたしている。
日夏が二人の間に入っていった。
双葉が秋津を指差しながら日夏に何か話し始めた。
しばらく待たされそうだな、と早瀬は思う。
「おう、早瀬。久しぶりじゃの」
と、杖をついた老人が、背後から早瀬の肩を叩いた。
振り返り、早瀬は笑顔で会釈する。
「館長、お久しぶりです。……あいつ、秋津?どんな奴なんですか?」
挨拶もそこそこに、早瀬は老人に尋ねた。
「気になるか?」
早瀬の非礼を気にする様子もなく、老人――館長は意地悪く笑った。
「気になるから聞いてるんですよ」
子供のころから日夏と図書館に通っていた早瀬は、この館長とも親しい。
早瀬が学生のころには、意味のわからない恋愛ハウツー本を貸してきて「日夏に実行しろ」とけしかけてきたり、図書館で騒ぐ悪ガキをこらしめるのに協力しろと言ってきたり、はちゃめちゃな老人だ。
そして幼いころから、早瀬の気持ちは館長に筒抜けだ。
そのため早瀬も館長には警戒せずに探りを入れられるのである。
館長は、ニヤニヤと笑って秋津について教えてくれた。
「秋津はな、この図書館に来てからしばらくは全然馴染めなかったんじゃが、日夏が何やらけしかけたようでな。少しずつ職員たちとも打ち解けて、今ではあのとおり、すっかり馴染んどる。おどおどしとるがあれでもかなり明るくなったしな」
「……ああ、なるほど」
日夏の『お得意』のパターンだ。
「で、今はそんな恩ある日夏にやたら懐いとる。いつも目で追っとるしな。いやなに、おとなしいくせに意外と積極的な奴じゃ。お前と逆じゃの」
館長はけらけらと笑う。
「ほっといてください。それにしても館長、よく見てるんですね。暇なんですか」
「失礼な。お前さんの代わりに日夏の周りを目を光らせてやっとるというに」
「よく言いますよ。ただの野次馬根性じゃないですか」
早瀬は肩を竦めた。
この老人は、相変わらずだ。
ふと奥の席を見ると、どうやら双葉の話は終わったようだ。
日夏の話を聞いて、秋津がこちらを見た。
軽く会釈をして、早瀬は彼らの方へ近づいた。
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