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とにかく、その秋津とやらについて詳しく調べなければならない。
巻き込まれているとは、どういうことだろうか。
日向も、そちらを主に忠告したかったのだろう。
しかし、ついでに宣戦布告とは、犬のくせに生意気だ。
(……あの野郎、言うに事欠いて『噛みつく』だって?)
冗談じゃない、と早瀬は呟く。
とりあえずは、その秋津が巻き込まれているという問題を解決してしまうか、秋津に日夏を諦めさせてしまえば、日向も性急なことはしないはずだ。
日夏はお節介なところがあるが、秋津が必要以上に近づいてこなければ、トラブルに巻き込まれるほどに関わりを持つこともないだろう。
『日夏を諦めさせる』ことに関しては、幼いころからのキャリアがある早瀬だ。
日夏に感づかれず、うまくやる自信はある。
(でも昔から日夏のこと好きな奴はしつこいんだよな……)
自分が一番しつこいということはもちろん自覚している。
まずは、秋津という男がどんな奴なのか日夏にさりげなく聞いてみよう。
今日の帰りは、日夏を待って一緒に帰ることにした。
***
早瀬が図書館前で待っていると、日夏が玄関から出てきた。
彼に気付き、駆け寄ってくる。
「早瀬!」
よくこんな風に一緒に帰るので、日夏も、自分を待っていたのだろうとわかっている様子だ。
さて、どんな風に話を切り出そうかと考えながら、早瀬は軽く手をあげて日夏に応える。
早瀬のところまで来ると、日夏は息を弾ませながら言った。
「早瀬ちょうどよかった!あのね、聞いて!秋津くんがね、」
「なにっっ!?」
いきなり日向の予言が的中し、早瀬は思わず声をあげる。
「え?」
「……いや何でもない。で?」
続きを促すと、日夏は嬉しそうに話し始めた。
「秋津くんがね、劇団の興行の招待券を二枚もらったけどその日用事があるらしくて、わたしちにくれるって。幼なじみがいるって、前に話してたから。
今度の祝日、東の街であるから少し遠いけど、一緒に行かない?」
早瀬は内心胸をなでおろした。
日夏自身は特に相手を意識しているわけではなさそうだ。
笑顔を作って返事をする。
「いいね、行こう。……で、秋津って誰?」
「え?あ、まだ話してないんだっけ。最近こっちの図書館に異動してきた男の子なの。おとなしいけど努力家で……あ、今まだ残ってたから会いに行く?一緒に招待券のお礼言っとこうよ」
願ってもない展開だった。直接顔が拝める。
「うん、そうしようかな。日夏の同僚なら、仲良くなりたいしな」
内心では、軽く牽制しておかないと、などと思いながら、そんなことを言う。
日夏が絡むと自分は意地が悪くなるな、と早瀬は苦笑した。
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