星月 | ナノ


▼ 

挨拶だけで秋津は去っていった。


そして、図書館前まで来ていたので、二人ともお別れだ。

「じゃあね、凍瀧さん、灯」

「おう。早瀬に次は休み取れよって言っといてくれ。千歳さんにもよろしくな。体壊さないようにって」

「うん、伝えとく。灯、凍瀧さんこそ体壊しちゃいけないから、無理させないでね。もちろん灯も」

「はい、日夏さん。ありがとうございます」

「なんで灯に言うんだ」

「凍瀧さんに言っても、なんかあったら絶対突っ走るから」

「主が突っ走ることがあれば、私が無理矢理お止めしますのでお任せください」

「こいつらはほんとに……」


もっと主をたてろよ、などと言いながら凍瀧は帰っていった。

灯は黙って後ろを着いていく。


日夏は二人の後ろ姿を見送った後、図書館の鍵を開けた。



父を亡くしたとき、凍瀧がいなければ立ち直れなかったかもしれない。

日夏の父と早瀬の父、二人揃っての『事故死』は明らかに不自然だったが、真実はうやむやにされたままだ。

凍瀧は、いまだにその真相について調べてくれているらしい。


今生きている凍瀧まで失いたくないから、本当に無理はしないで、と日夏は願っている。


そして、自分たちも家族を失ったというのに、早瀬と千歳も日夏を支えてくれた。

葬儀で泣くことしかできない日夏に、涙ひとつ見せずに付き添ってくれた早瀬の姿を思い出す。

早瀬だって泣きたかったはずなのに。



いつか、自分を支えてくれた人たちが、自分の前で涙を見せてくれるくらいに強くなりたい、と日夏は思うのだった。



***





prev / next
(3/9)

bookmark/back / top




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -