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挨拶だけで秋津は去っていった。
そして、図書館前まで来ていたので、二人ともお別れだ。
「じゃあね、凍瀧さん、灯」
「おう。早瀬に次は休み取れよって言っといてくれ。千歳さんにもよろしくな。体壊さないようにって」
「うん、伝えとく。灯、凍瀧さんこそ体壊しちゃいけないから、無理させないでね。もちろん灯も」
「はい、日夏さん。ありがとうございます」
「なんで灯に言うんだ」
「凍瀧さんに言っても、なんかあったら絶対突っ走るから」
「主が突っ走ることがあれば、私が無理矢理お止めしますのでお任せください」
「こいつらはほんとに……」
もっと主をたてろよ、などと言いながら凍瀧は帰っていった。
灯は黙って後ろを着いていく。
日夏は二人の後ろ姿を見送った後、図書館の鍵を開けた。
父を亡くしたとき、凍瀧がいなければ立ち直れなかったかもしれない。
日夏の父と早瀬の父、二人揃っての『事故死』は明らかに不自然だったが、真実はうやむやにされたままだ。
凍瀧は、いまだにその真相について調べてくれているらしい。
今生きている凍瀧まで失いたくないから、本当に無理はしないで、と日夏は願っている。
そして、自分たちも家族を失ったというのに、早瀬と千歳も日夏を支えてくれた。
葬儀で泣くことしかできない日夏に、涙ひとつ見せずに付き添ってくれた早瀬の姿を思い出す。
早瀬だって泣きたかったはずなのに。
いつか、自分を支えてくれた人たちが、自分の前で涙を見せてくれるくらいに強くなりたい、と日夏は思うのだった。
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