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「じきに発表があるから話してもいいと思うが……国王陛下がまた側室を娶られるそうだ。今度は不思議な力を持った星の民の少女らしい」
場所を日夏の家に移し、三人は最近の王の動向について話した。
「信じられない!王様ってそういうことしか考えてないの?この国が絶対王政じゃなくてよかった。今の状態でも十分問題だけど……」
この国の王は絶対的な権力を持っているわけではない。
緊急時以外は、どのようなことも議会で審議された後に決定する。
今の王は何かと悪評の絶えない人物なのだが、以前は、日夏と早瀬の父、そして凍瀧がうまく王の舵を取り、なんとか国政は安定していた。
しかし二人の死でそのバランスが崩れた。
自らの欲のため王に取り入ろうとする一派が力を持ち始め、現在雲行きが怪しいことになっている。
先日も、小麦への無茶な増税案が可決され、国民から非難を浴びた。
そんな中での『側室』だ。
王が側室を迎えるのは今回で十人目で、女を囲う金があるなら国民のために使え、とますます非難をあびることになるだろう。
「その少女、王子殿下がお忍びで街へ出たときに出会い、恋に落ちた相手らしいとの噂があってな。デマかもしれんが、本当だったら一騒動あるかもしれん」
王子は、国王とは違う意味で自由な人柄だという。
しょっちゅうお忍びで街に降りては庶民と交流しているらしいのだ。
わがまま放題な国王に比べ、日夏の中での印象は、王子の方がかなりいい。
もし噂が本当なら、王子もその少女も辛いどころではないはずだ。
知っていて側室に迎えたのでは、と日夏に勘繰られるくらいに、王のイメージは悪い。
ひとしきり王宮の話題で盛り上がった後、日夏も最近の自分や早瀬のことを話し、気付けば日が暮れかけていた。
図書館に忘れ物を取りに行くついでに、日夏はふたりを送ることにしていた。
「今日はめずらしく日向がいないな。あいつも元気か?」
「うん、元気。今日は朝からどこかに出かけてたわ」
そんなやりとりをしながら歩く。
灯はその間も、常に周りの気配に気を配っていた。宰相である凍瀧の身を守るのも、彼女の重要な仕事だ。
図書館が目の前に見えてきたところで、日夏は、向こうから歩いてくる見知った顔に気付いた。
「秋津くん!」
日夏は声をかける。
「日夏さん、こんばんは。偶然ですね」
秋津は少し驚き、それから笑顔で答えた。
「仕事でもないのに図書館近くで会うなんてね。あ、凍瀧さん、こちら同僚の秋津くん。最近こっちに異動して来たの。秋津くん、この人は父のお友達だった凍瀧さん。それと精霊の灯」
日夏は、お互いをそれぞれ紹介する。
「凍瀧さん……って、もしかして宰相の……!」
秋津は、凍瀧の名前を知っていたようだ。
『王宮の最後の良心』といわれている凍瀧のことは、王都では一般人が知っていても不思議ではない。
それにしても、最近まで田舎町にいた秋津が知っていたとは、日夏には意外だった。
「秋津くん、詳しいのね!」
「そ、そうですか?有名な方ですから。日夏さんとお知り合いだったなんて、びっくりしました……」
秋津は、春先の日夏の言葉を実行し、今では図書館職員とすっかり打ち解けている。
遠慮がちなのは相変わらずだが、表情もかなり明るくなり、理由もなくおどおどするようなことはなくなっていた。
一部の女子職員からは「かわいい」と評判だ。
そんな今でも、やはり日夏に最も心を開いている様子で、控え目ながら、暇さえあれば彼女に話しかけている。
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