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「まあつまり、すべての原因はうちの母親、ってことなんだけど……」
さすがに少し決まり悪そうに、早瀬は頭をかく。
日夏はため息をついた。
「でも千歳さんのおかげで吉野はうれしい新事実を知れたわけだし、あのイヤリングだって気に入ったみたいだし、結果的にはすごくよかったわよね」
さっそくイヤリングを着け、嬉しそうに微笑む吉野を見ながら言う。
「あのイヤリングは卯浪さんが選んだんだよ。あれを見つけた瞬間『これにします』って。母さん出番なかったって言ってた」
「そうだったの。やっぱりあのふたり、こっちが心配する必要なんてまるでないくらい、お互いのこと想ってるのね」
吉野のためにここに来たはずだったが、結局見せつけられる形になってしまった。
でも、ふたりの幸せそうな笑顔を見ていると、日夏は「まあいっか」と思うのだった。
***
翌日、卯浪は早瀬から今回の騒動の詳細を聞いていた。
「なるほどな、それで日夏と日向が毎日奇怪なちょっかいをかけてきていたわけか」
当然二人の行動は奇怪に映っていたらしく、卯浪は合点がいった様子だ。
「そうなんだよ。俺から卯浪さんに話せばよかったのかもしれないけど、変な伝わり方したらますますこじれかねないなと思って黙ってたんだ。あれで日夏も一生懸命だったから、止めるに止めれなかったし」
「いや、今回のことは吉野の気持ちに気付かなかった俺が悪い。吉野が自分から聞いてくれなかったら気付かないままだった」
卯浪は、知らないうちに吉野を不安にさせていたことを反省しているようだった。
ふと思い出して、早瀬は日夏から仕入れた意外な情報について尋ねた。
「それにしても卯浪さん、吉野ちゃんの部屋に行ったことないんだって?気持ちはなんとなくわかるけど……」
「昔付き合った人と、向こうの強引さに負けていろいろと無責任なことをしてしまったから、吉野とはそんな風に付き合いたくないと思ったんだ。ちゃんと将来のことを考えているから、いろいろと慎重になる」
「我慢強いなあ、卯浪さんは。俺だったらその決意は一日ともたない気がする……」
呆れているような、感嘆しているような、複雑な表情で早瀬が言う。
卯浪は苦笑して答えた。
「だから一人暮らしの部屋には行かないようにしてるんだ。……というか、俺からしたら、お前の我慢強さの方がどうかしてると思うぞ。何年片想いしてるつもりだ?」
「えっと……なんというか、普通にばれてますか……?」
「日夏以外には、そうだろうな」
今度は早瀬が苦笑する番だった。
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