星月 | ナノ


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「えええっ!?」

思いがけない答えに、吉野以上に日夏の方が驚いて、早瀬を見る。

早瀬は気まずそうに目をそらした。



「これを選ぶのを手伝ってもらっていた」

そう言って卯浪は小さな箱を取り出し、吉野に手渡す。

吉野が戸惑いながら包装を解くと、かわいらしいイヤリングがでてきた。

小さな花の形をしている。


「記念日の今日、渡そうと思って買った。毎年、特に何もしていなかったから、たまには喜ばせたいと思ったんだ。最近なかなか会えないから、余計に」


吉野はイヤリングをじっと見つめていたが、こらえきれなくなり泣き出した。

「私……卯浪さんに嫌われたんじゃないかと思って……たまにしか会えなくて、気持ちが薄れてしまったのかもって……」

「何を言ってるんだ」

「告白したのは私だから……ずっと、私だけが好きなんじゃないかって、不安で……卯浪さんはとても大事にしてくれてるのに……不安で……」


吉野は、今回のことより以前から不安を抱えていたのだろう。

それを全部吐き出す。


卯浪は、泣きじゃくる吉野を見てうろたえている様子だ。

「秘密にしていてびっくりさせた方が喜ぶだろうと千歳さんに言われて黙っていたんだが……そんなことになってたなんて気付かなかった。悪かった」

心底すまなそうに謝る。


そして、涙をぬぐっていた吉野の手をとり、彼女をまっすぐ見つめて言った。

「それから、俺はずっとお前のことが好きだったから、お前から告白されて本当に嬉しかったんだ。だからもう不安になんてなるな」


吉野は、思いがけないことばに驚き、その後泣き笑いの表情で「……はい」と頷いた。




「う、卯浪さん……それって最初に言っておくべきことなんじゃ……!」

木の陰で、日夏は脱力してしまった。思わず芝生の上にへたりこむ。

告白される前から好きだったとは、まさかの新事実だ。

「あの人のことだから、態度で伝わってるって思ってたんじゃないかな」

早瀬も苦笑する。


「でもやっぱりちゃんと聞いてみたらたいしたことじゃないってわかってよかっ……じゃないわよ!」

日夏は思い出したように叫ぶ。

「早瀬、説明してもらうわよ!知ってて黙ってたでしょ!?千歳さんも!」

日夏の最初の予想『お母さん』はある意味当たっていたわけだ。ただし、早瀬の母だったが。

「卯浪さん言ってたじゃないか。秘密にしてたって。それに俺ちゃんと言ったよ『卯浪さんを信じて』って」

「……だったらわたしにくらい教えてくれたって!教えてくれてたらあんな変な作戦立てなかったのに」

「変な作戦って自覚はあったのか……いや、日夏に教えたら絶対顔に出るからくれぐれも日夏には教えるなと卯浪さんが」

「なっ……し、失礼すぎる!」

いろんな意味で怒り心頭な日夏を見て、早瀬は「もっともだ」という顔をした。

「最初からプレゼント選びを日夏に付き合ってもらってればこんなややこしいことにはならなかったかもしれないけど、卯浪さんが照れくさいとか言ってて……結局うちの母親が無理矢理立候補したんだ」


そのときの様子が目に浮かぶようだ。

そして、千歳なら買い物中に腕を組むくらいするだろう。あのいつものテンションで。

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(8/10)

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