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「どんな状況だろうと昨日が日夏の誕生日だったことに変わりはないだろ?」
早瀬が当たり前のようにそう答えることに、日夏は少し戸惑った。
自分が思うよりもっと、自分は早瀬に大事にされている――頭ではわかっているつもりでも、あらためて実感すると、やっぱり敵わない、と思う。
「ありがとう、早瀬。昨日のことも」
「うん?」
「誕生日に一緒にいてくれて、わたしのことで怒ってくれて……だけどね早瀬、わたしだけじゃなくて自分のことも大事にして?」
早瀬の言葉は、行動は、いつも『日夏のため』。
押しつけているわけでもないし、恩着せがましいわけでもない。
むしろそれがあまりに自然だから、少しだけ不安になるのだ。
「早瀬自身のこと、もっと考えて?そうじゃないと、なんていうか……不公平だよ」
「不公平って」
早瀬は楽しそうに笑った。
「でもなあ、日夏のことばっか考えてるのは小さいときからずっとだからなあ。身体に染み付いてるというか」
今度は、困ったなというように顎に手を添える。
「日夏のことが自分のこと、みたいになってるからなあ」
日夏はポカンと口を開けた。
「あっ、待って!日夏、呆れないで!」
「呆れてるわけじゃないけど……」
「日夏のことばっか考えてるって言ってももちろん生活に支障のない範囲だし、たぶん……それにあれだ、日夏のことを常に監視していたいとかそんなんじゃないから!」
「そんなこと思ってないってば」
ただ日夏は、こんなにも誰かに――早瀬にずっと想われていたのだとあらためて思い知って、なぜ気づけずにいたのだろう、と自分に呆れていたのだ。
たとえば鈴懸が、『いちばんに愛している』飛鷹王子の傷を治すように。
こんなにもあからさまに、魔法もなしに、早瀬にとって『日夏がいちばん』だとわかってしまうのだ。
――わたしだってそう思ってる。
だけど、ふたりのように、どうやってそれを『見せる』のかわからない。
怖いことにも思える。
いつかのような、悪意に――早瀬が一緒に飲み込まれてしまうのではないだろうか。
逆に言えば、早瀬を陥れるために自分が利用されて、わたし自身が早瀬を脅かすことになるかもしれない――だから、『不安』だと感じたのだ。
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