星月 | ナノ


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「なあ、日夏はこういう恋愛事とか疎いんだから、変なことせずにおとなしく様子見てた方がいいんじゃないか?」

『他の策』とやらも期待できないだろうと予想した早瀬が、さりげなく作戦中止をすすめる。

「何よ、疎いって!たしかにわたしはもてないけど」

日夏はそちらの方に反応した。
作戦中止は頭にないようだ。

「もてないというか……」

「そういえば早瀬が誰かと付き合ってるって話も聞いたことないけど。もてたのにどうして誰とも付き合ったりしてないの?……もしかして、わたしが知らないだけでいろいろ、」

話はそれたが、聞き捨てない言葉に早瀬は反論する。

「ないよ。全部断ってた」

「ええっ!もったいない!どうして?好きな人がいたとか?」

「……知りたい?」

「え……っ」


急にまじめな顔になってこちらを見るので日夏は一歩後ずさる。

「いや、その、べつに……」

すると早瀬はふっと笑った。

「こんなふうに日夏がしょっちゅうわけわかんないこと始めるからなあ。それを見てハラハラするのに忙しくて、それどころじゃなかったんだ」


日夏は尾行も忘れて、しばらく早瀬と言い争うことになった。


***



「全っ然うまくいかない!」

一週間後、日夏は図書館の貸出カウンターにつっぷして嘆いていた。

尾行作戦は暗礁に乗り上げていた。

卯浪は毎日まっすぐ家に帰るし、斥候も失敗ばかりだ。

日夏が「卯浪さんのこと好きだっていう子がいるらしいよ?」と揺さぶりをかけてみたり、日向が「女の子ナンパしに行こうぜ」と誘ってみたり、日夏が「恋の悩みにいいアドバイスくれる占い師がいるらしいから一緒に行かない?」と持ちかけてみたり……

最初のは「それはデマだろう」と一蹴され、次のは「興味がない。日向どうしたんだ?嫌なことでもあったのか」と逆に心配され、その次のは「とくに悩みはない。」とすげなく断られた。(せっかく占い師に化けていた日向は日夏を責めた)


早瀬には「完全に作戦が的外れだろう」と呆れられ、日夏はもはや自信をなくしていた。

次なる作戦も思いつかず、日夏は頭を抱える。


「……何かあったんですか?」

同じく貸出カウンターの当番になっている秋津が遠慮がちに尋ねてきた。

他の者とはめったに話さない秋津だが、日夏がよく話しかけるためか、彼女にはたまに話しかけてくるようになった。

日夏は、藁にもすがる思いで、事情も知らない秋津に質問を投げかけた。

「秋津くんは、大事な人を信じられなくなってしまったとき、どうすればまた信じられるようになる……?」


思いがけない言葉に、秋津はしばらく考えを巡らせていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「僕は、自分に自信がないから、しょっちゅう大事な人たちを信じられなくなります。家族も、友達も、ほんとは僕の存在が迷惑なんじゃないかって……何か失敗するたびに思います。今も時々」

僅かに俯きながら言う。

「僕にはとてもできないことだけど、そういうときは、ちゃんと話ができたら、不安はなくなるんじゃないかと思うんです。

僕は、『僕の存在は迷惑?』って聞いて『そうだよ』って言われるのが怖くてとてもできないんですけど……でも、聞きたいことを本人に聞ける関係でいないと、その先何回も信じられなくなる場面が来てしまうと思います。……僕みたいに」

小さく苦笑してから、秋津は顔を上げた。

「だから、どんどん時間が経って言えなくなってしまう前に、自分の気持ちを相手に伝えることが、いちばんの方法なんじゃないかと僕は……って、調子に乗りすぎました!すみません!聞かれてもないのに自分のことまで話して……」

秋津は、急に我に返ったように、慌てはじめた。自分でも思いがけないことを言った、という表情だ。


「ううん……、今わたし、すごく目からウロコが落ちた気分!そうよね、基本的なことを忘れてた。気になることはコソコソ調べずに、直接聞けばいいんだ!」


日夏は、冬の流星群の日を思い出した。

あの時も、思いを直接ぶつけたから、あんなに気持ちが楽になったんだった。


「さ、参考になったんでしょうか……?」

秋津がおそるおそる尋ねる。

「もちろん!今日さっそく吉野のところに行こうっと!秋津くん、ありがとう!」

「い、いえ……こちらこそお役に立ててうれしいです」


日夏に笑顔で礼を言われた秋津は、遠慮がちにぎこちなく笑い返した。


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(6/10)

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