星月 | ナノ


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しかし、

「先程も言ったように、議会は父に掌握されている。凍瀧どのなら力になってくれるだろうが、勝算は高くない。そうなれば凍瀧どのの立場も悪くなる。もちろん鈴を救えなくては意味がないしな。――屈するようで歯痒いが、逃げた妃と邪魔な王子を、父が深追いするとは思えないのだ。鈴を確実に守るには、これしかない」


そんな飛鷹王子の返答に、日夏は膝の上に置いたこぶしを握った。

「王宮がこんなことになってるのに……国民は誰も気付いてないなんて」

今すぐにでも自分が声をあげたいくらいだったが、それでは墓穴を掘るようなものだ。飛鷹王子と鈴懸を危険に晒す。

二人のことを考えれば、刃向かって命を落とすより、逃亡はよほど安全な方法だということも理解できた。



――と。


「貴方は、王族としての責任については、思うところはないのか」


ずっと沈黙を守っていた垂氷が、口を開いた。


「王位を継げないにしても、王宮で力を生かす方法はある。貴方までいなくなれば、この国は遠からず傾くだろう。貴方の国民を捨てて逃げることに――罪悪感は抱かないのか」


「おい、猫……」

直立不動で、ひざまずく飛鷹王子を見下ろした垂氷に、日向が咎めるような視線を送る。

しかし、垂氷は無表情のまま、飛鷹王子を見つめ続けた。



「――何を言われてもしかたないとは思っている」

飛鷹王子は、立ち上がり、垂氷を見返した。

体術を身につけていると聞くその体躯はたくましく、長身の垂氷と視線が真っ直ぐにぶつかる。

「母の息子に生まれた瞬間、私には王族としての義務を背負ったのだ。それを疎む気持ちなどなく、むしろ誇りに思い生きてきた。……だが私は、それを捨てる。浅はかだと、勝手が過ぎると罵られても」


そう言った飛鷹王子を見上げた鈴懸は、唇を噛んでいた。


飛鷹王子は言葉を続ける。

「父の政治を変えたかった。この手で国民の笑顔を増やしたいと願っていた。鈴に出会ってからは尚更。だが、そんな自分を踏みにじる決断を、私はした。もはや私は、王族の資格はない。義務を放棄したのだから」

「開き直ればいいというものではないと、俺は思うが」

「そうだな。開き直っているつもりはないが、かと言って翻意するつもりもない」


「……王宮の外から、味方を作ろうとは、思わないのか」


少し間を置いてから垂氷が言った言葉に、飛鷹王子は眉を潜めた。

「外……?」


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