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父親に、不義の子と誤解され、疎まれる。そんな彼が、王宮の外で愛する者と出逢った。
「それだけで、父にとっては忌ま忌ましい事実だっただろう。しかし、それだけではなかった。父の興味をひく『能力』が、鈴にはあったのだから」
「癒す、ちから……」
日夏は呟く。
決して不老不死になるわけではないだろう。しかし、権力に固執する者は、そのちからに夢を見るはずだ。
「星の民は王位には就けない。側室に迎えたところで、意味はない。ましてそこに愛はないのだから」
それでも王は、鈴懸を側室にした。
息子への『報復』と、少女の能力のために。
「自分の行動が父に筒抜けだったことに、私はその時初めて気付いた。間抜けな話だ。どこかで父を信じたかったのかもしれない」
しかしその甘さが鈴をこんな目に遇わせたのだ、と飛鷹王子は唇を噛む。
「父は鈴を暗い部屋に閉じ込めた。私は当然、会わせてもらえなかった。父は毎晩、鈴の元を訪れて言ったという。『息子に捧げたものを、私にも捧げろ』と」
鈴懸にとってそれは、不可能なことだった。いくら頭でそれを願っても、心のいちばん奥をコントロールすることはできない。
「何度か、周りの目を盗んで鈴と会った。鈴の能力がそういうものであることはわかっていた。痺れを切らした父が鈴に何をするか、それが恐ろしかった。王宮から逃げようか、と話したこともあった」
「それをナツのクラスメイトの精霊が見てたんだよな」
そこで日向が口を挟んだ。
雀の精霊が『駆け落ちをしよう』などと話す飛鷹王子と少女の姿を見ていた。それを日向はパーティーの日に聞いていたのだった。
「その時は、まだ非現実的な話だったのだが――」
「自分になびかない鈴を、あのジジイは処刑するっつったんだよ」
まるで見てきたように憎々しげな表情で、日向がその先を引き取った。
「処刑、って……」
早瀬が腰掛けていたソファから立ち上がる。
この国に死刑制度は存在するが、よほどの凶悪犯罪か、王族殺しなど、めったなことでは求刑、執行されない。
王の機嫌を損ねただけで処刑されるなど、前代未聞だ。
いや、もしかすると明るみに出ていないだけでこれまでも秘密裏に行われていたのかもしれない――王族、そして議会への不信が二人の胸に押し寄せた。
「命だ。まして、愛する者の命だ。それと計りにかけて、優先すべきものなど私には持っていない。王位継承権も、鈴の命に比べれば」
真っ直ぐに早瀬を見つめ訴える飛鷹王子。
その思いに、早瀬が共感できないはずがなかった。
そしてそれは、日夏も同じだ。
「命より重いものなんてないと、わたしも思う。――だけど、どうしてわたしたちのところへ……?」
話しながら思い出したように、日夏は尋ねる。
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