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「このとおり、口数こそ少ないが、鈴は私を大切に思ってくれている。そしてそれに負けないくらいに、私も鈴を想っている」
迷いも曇りもない言葉に、聞いている日夏と早瀬の方がたじろぐ程だった。
日向は既に聞いていたからか、得意げに「いい話だぜ」などと頷いている。
「――しかしそれを、父に知られてしまったのだ」
一転して、飛鷹王子の表情が暗くなる。
「父は、私を疎んじている。この性格ももちろんだが、一番は母親のせいだ」
そこで日夏が口を挟む。
「母親…お母様は正室だったんじゃないんですか?亡くなられて以来、その座はずっと空位だと」
凍瀧から聞きかじったことであった。
「その通りだ」
飛鷹王子は頷いた。
「父と母の間には、長らく子がなかった。そして……もとは貴族の娘であった母には、幼い頃より焦がれた相手がいた。父はそれを知っていた」
苦い表情になる。
「子供の父親など、母親がいちばんわかっている。母はそう繰り返していたから間違いなく私はあの父の息子だ。『そうでなければ今頃、お前を連れてここから逃げている』と、母は言った。――しかし、父は信じなかったのだ」
それは、幼少の飛鷹王子を、どのような気持ちにさせたのだろうか。
真逆なようでいて、同じなのではないだろうか――そう感じた早瀬は、僅かに俯く。
それに気付いた日夏が、気遣うような視線を早瀬に向けた。
「その後、側室たちが立て続けに子を身篭り、私の存在にはただ『正室の生んだ王子』という価値しかなくなった。次の王位継承者を指名するのは議会、最終的には父だ」
二人の様子には気付かなかったようで、飛鷹王子は続けた。
正室の第一王子である飛鷹王子。次期王位継承者は必ずしも彼ではないのだ。
側室の子でも優秀ならば王位を継げる。生まれた順序は関係ない。合理的なようで矛盾も孕んでいる印象を受けたから、日夏はよく覚えていた。
建前としては、あらゆることは議会の合意なしには進めることができない。王に絶対的な権力があるわけではない。
しかし、現王は議会のほとんどを掌握している。凍瀧が『最後の良心』と言われる所以はここだ。
そんな議会――つまり王のことだ。第一王子である上に優秀だと噂される飛鷹王子を弾いてしまっても、不思議はない。
王に迎合することはもちろん、腐敗した今の議会にとっても、実直な飛鷹王子は『扱いにくい』存在だろう。
「私が生まれたた直後、母の想い人は亡くなったらしい。そして母はそれから、子を授かることはなかった。父の中ではもう、物語が出来上がってしまっていたのだろう」
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