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翌日、仕事帰りの卯浪を尾行すべく、日夏は日向を連れて、天文観測所の陰で待機していた。
しかしなぜか、呼んでいないはずの早瀬がそこに現れた。
「わたしとクロだけで行くって言ってたのに、なんで早瀬まで来るの!?」
「二人を放っておいたら卯浪さんに感づかれて妙なことになりそうだから」
早瀬は、腕を組んで壁に寄り掛かる。
「てめー失礼だぞ!」
「見ろよ、クロなんか完全に遊び気分じゃないか。しっぽ振ってるぞ」
「ばか言え!見間違いだ!」
日向はあわててしっぽをしまう。
今日は人間の姿だ。
「で、これから毎日ひたすら尾行するわけなのか?日夏」
早瀬が問う。
「いいえ!尾行しつつ斥候を放つのよ!さっそく今日も準備をしてきたわ!」
そう言って、日夏は大きなかばんから何かを取り出す。
「女物の……服?」
「女の子に卯浪さんを誘惑させるのよ」
「女の子って……誰が?」
「クロ」
「何ぃっっ!?!?」
初耳だったらしい日向が叫ぶ。
「ちょっと待て聞いてねーぞ日夏!そんなのこいつにやらせろ!」
「早瀬は女の子にしては背が高すぎるでしょ」
「俺だって……」
「クロは身長わたしと同じくらいでしょ。早瀬にはできないことがクロにはできるなんてすごいじゃない」
「……くっ」
結局日向は逆らえず、一時間後には、女物の服に身を包み、カツラをかぶった濃い化粧の少々ごつい女性(?)が、卯浪を尾行する一行に混じっていた。
「いい?もしばれても絶対にわたしたちのことはばらしちゃだめよ?うまくごまかして逃げてね!」
「おうよ」
「それから、ちゃんと女の子みたいにしゃべってね?」
「……おうよ」
作戦を確認した後、日向は前を歩く卯浪を追って駆け出した。
「お兄さ〜ん。アタシと遊ばな〜い。こんなところで一人寂しく歩いてないで〜」
台詞を棒読みしながら日向が卯浪に近づき、手をとる。
卯浪はギクッとした表情の後、不思議そうに尋ねた。
「何やってるんだ?日向」
「ばれたーーーー!!!!」
「ば……ばれた……!?」
「当たり前だろ」
物陰から様子を見ていた日夏は驚愕し、早瀬は呆れ顔でため息をついた。
「はあ、これはもうだめだな。日夏、あきらめろ」
「まだまだ策はあるんだから、あきらめないわよ!……今日の作戦は失敗かもしれないけど」
しどろもどろに言い訳をしながら日向が走り去っていく。ばれたらひと足先に家に帰っておくことになっていた。
帰ったら責められそうだ。
「とりあえずわたしたちは卯浪さんちまで尾行を続けないと」
卯浪は日向の奇行に首を傾げながらも、再び家路につく。
寄り道もせずまっすぐ帰っているようすだ。
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