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吉野が帰った後、日夏は早瀬の家の玄関で、まだ彼と話していた。
「浮気してるとかじゃなくて、卯浪さんにちょっかいかけてきそうな人に心当たりとかないの?たとえば……卯浪さんが昔付き合ってたっていう人とかは?」
「卯浪さんが中等部の頃、強引に付き合わされた人だろ?あの人なら卒業した後田舎に帰って結婚したって聞いたぞ」
「じゃあ違うかあ。卯浪さん硬派だから、こういうとき全然あやしい人が出てこないよね。早瀬みたいに心当たりだらけでも困るけど」
「ちょっと待て。失礼だ。俺はある意味、卯浪さんより一途だぞ」
「何言ってるの。卯浪さんに失礼でしょ」
二人で話していると何かと本題から逸れがちだ。千歳のことは言えない。
日夏は話を戻す。
「とにかく、吉野はもういいって言ったけどそんな風には全然見えなかった。それに、聞いてしまった以上わたしは気になる。こっそり調べて、浮気の証拠……っていうよりは、卯浪さんが潔白だっていう証拠を見つけたいんだけど、」
「ないって証明する方が、あるって証明するより断然難しいって、知ってる?」
早瀬は苦笑しながら、控え目に問う。
「わかってる。でも吉野は、卯浪さんを信じられなくて苦しそうだった。そんなときできることって、疑う余地をなくしちゃうことくらいしか、わたしには思いつかない。
信じてって早瀬は言ったけど、好きだからこそ……好きすぎて信じられないことって、よくわかんないけど、あるんじゃないのかな?」
「……日夏もそんなことあったの?」
「想像だけど。恋じゃなくても、似たようなことってあるなあと思って」
経験はなくても、想像することはできる。
人を好きだと思う気持ちは、恋でも恋じゃなくても、重なる部分はあるはずだ。
「たしかにそうかもしれないけとま……でも日夏、そういうのって余計なお世話って言うんだよ?」
早瀬は理解を示しながらも痛いところをつく。
たしかに、下手に首をつっこめば事態が悪化する可能性もある。
「う……わかってる。わかってるけど……でもわたしが知りたいから!吉野のためじゃなくて、わたしが、卯浪さんが吉野を本当に大切に思ってるのか知りたくて調べるんだから!」
友情を盾に、他人の事情に踏み込んでいいとは思わない。
だけど、とてもじっとしてはいられなかった。
早瀬は、こうなった日夏を止められないとわかっているので、軽くため息をついて尋ねた。
「で、具体的にどうやって調べるんだ?」
「……尾行」
「ベタだなあ〜」
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